第八十二話:労働条件はしっかりと
私も週四日で日給十万のところで働きたいな。
そしてぼくらはギルドマスターの部屋に呼ばれた。受付嬢のお姉さんも一緒だ。
「あー、すまんな。ワシはこのギルドのギルドマスターをしておるグガンツという」
なんか硬そうな名前だこと。見るからにドワーフとかでは無いみたい。いや、ドワーフ居るのかすら知らんけど。
「はあ、よろしくお願いします」
「うむ、それで、だ。お前さんが出そうとしてる求人についてなんだが」
「やっぱりアレですかね?」
「相当にな」
薄々そうじゃないかと思っていたが、あの求人だとやっぱりまずいらしい。そりゃあそうだろう。あの求人には休みの記載も仕事時間の記載もなかったもんな。あと、有給休暇もあった方がいいだろう。それに健康保険……制度自体あるか分からないのでそういう病気や怪我の時の備えも必要だよね。
「分かりました。ええと、まずは休みですが、週に決まった休日とかは難しいので交代で週四日程度で働いてもらおうと思います」
「はあ?」
「仕事時間は昼前の十一時から十五時、夕方は十七時から日付が変わるまで。少し長めの拘束時間になりますが、途中で食事休憩や軽い休憩も挟みます」
「お、おい」
「有給休暇は最初は半年に五日で。その後一年で十日ほどを予定しています」
「ゆうきゅう?」
「それで、仕事中に病気や怪我になった時の治療費もこちらでなるべく用意します。ご家族の方の場合もそれなりにお金は出そうかと」
「待て待て待て待て!」
なんですか? いや、説明しろって言ってるみたいだから働く環境を説明したんだけど。
「あのぉー、ゆうきゅうきゅうかとは」
「ああ、休んでもらう日の事です。心配なさらずとも給料は出ますから」
「働いてないのに給料出るんですか!?」
「え? あ、まあ。どうしても働けなくなる時とかあると思いますし。勿論一定日数以下でお願いしますね」
「はい! やっぱり私も働きます! お願いします、働かせてください!」
「ちょっとずるいわよサリー! 私だってそんな条件なら働きたいわよ。日給金貨一枚でしょう?」
なんな受付嬢だけじゃなくて秘書さんらしき人物も食いついてきた。そしてギルドマスターは頭を抱えている。
「いや、あのなあ。ギルドの切り崩しでもしてんのか?」
「え? いや、働くにあたっての説明を。あ、そうだ。女性の場合には育児休暇も」
「待て待て、ちょっと落ち着いて聞いてくれるか?」
「なんでしょうか?」
「待遇良すぎるんで条件下げてくれんか?」
なんとびっくり! まさか労働条件を下げろなんて言われるとは。受付嬢も秘書さんも不満そうな顔をしている。
「この冒険者ギルドの一日の給料知ってるか? 銀貨三枚だ。それでも高給取りだぜ。食事処の給仕とか給料出る方が珍しい。下手したら賄い出るだけってところもあるんだ」
冒険者ギルドって結構大変なところだと思うんだけどそれでも銀貨三枚。そこにぼくが日当金貨一枚で募集。ああ、そりゃ飛びつくわ。三十倍以上だもんね。
「それから休みの日なんてものはねえ。働ける日は働く。働けなくなったらそりゃ自分が悪い。そんなもんだ」
どうやら働けなくなったらサヨナラとか普通にあるらしい。健康管理も職務のうちって事かな。
「あと働く時間が長めって言ってたが普通は朝から晩まで働くんだよ。途中の休みもない」
それってなんてブラック企業……それでいて病気になったり怪我したりしたら捨てられる。黒も黒、真っ黒だよ!
「あとなんだよ有給って。仕事してないのに給料貰えるわけねえだろ!」
「あ、いえ、いつもと言うわけでなくて半年に五日くらい」
「金ってのは労働に対する対価として与えられるべきものだ。だから働かなきゃ金は貰えねえ」
まあ労働で成果をあげてないのに給料払うというのはいけないのかもしれない。
「そんな訳だからこの給料を一ヶ月分として出すならギリギリだな」
「ギリギリ?」
「受け付けられるラインだということだ」
どうやら求人を出すのも一悶着な様だ。最終的なラインとして給料は十分の一以下に。賄いと住む場所だけでも楽勝なのだ。オマケにお風呂と住む場所まで。
「ええと、申し込むにはどちらに」
「サリーは受付嬢頑張るのよ。それでオーナーお仕事はいつから」
ギルドマスターが死にそうな情けなさそうな顔をしている。あれでもまだ高かったと申すか。
そんなこんなで冒険者ギルドからも数人の冒険者が。男性も女性もいる。どっちでもいいんだよね。
「それでは接客訓練を行います。その前に……」
アインが辺りをキョロキョロしている。冒険者ギルドや商業ギルドの人たちも含めて研修をきちんとしようと思っている。
「貴様ら全員風呂に入って汚れを落として来い!」
多分一回風呂に入ったけど身体洗ってないとかなんだろうな。という訳でお風呂指導が先のようだ。




