第八十一話:従業員募集、初心者歓迎
銀貨一枚が約千円。銀貨百枚で金貨一枚。つまり、日給十万。
唐揚げを作るとなれば揚げる設備が必要になる。それも店をやるなら大量に揚げられるプールみたいなのが欲しい。
「アミタ、ちょっといいか?」
「なんですのん?」
「いや帝都で二軒目を出す事になったんだけど、唐揚げ揚げたいから設備作ってくれるか?」
「はあ、まあそんくらいならちょちょいといじればすぐやと思いますが」
「アスカ……は、店に残してきたんだったか。仕方ない。また今度だな」
とりあえず間取りを決めよう。玄関に続いた大広間にある二階に上がる階段は邪魔だからとっぱらってしまおう。この大広間を改築してファーストフードっぽくお持ち帰りと座って駄弁れる場所にしてしまおう。
そして一階の他の部屋は個室で食事をとりたい人の貸切スペースに。となると唐揚げだけでなく鶏肉料理全般みたいなのが良いかも。鶏肉というのは決定事項。材料がそこらに飛んでるもん。
奥のお風呂とかは従業員用に。清潔さは大切だからお風呂には入ってもらわねば。貴族だからかお風呂も広い。お湯が出る所が獅子じゃなくてドラゴンモチーフなのはこの世界ならではなんだろう。というかドラゴンもやっぱり居るのかね。
二階は従業員たちの寮にしよう。店の奥からしか上がれない様にする。三階はぼくらのスペースに。転移とかドア繋げたりとかちゃんとスペース作っとかないとね。
さて、あらかた形が出来てきたところでもう一度奴隷商に。従業員雇うのもありかもしれないけど、ぼく、面接したくない。それなら奴隷の方が……あ、いや、募集の面接は分身体でもいいのか?
という訳で商業ギルドへ。
「ようこそいらっしゃいました。陛下からお話は伺っております」
ハゲ親父再び。前の時と寸分違わぬセリフで迎えてくれた。というか皇帝陛下からやっぱり話がいってたのか。
「奴隷を買うか従業員を雇うか分からんがもし従業員募集で来たら便宜を図ってやってくれ、と」
何から何まで読まれてる気がする。いやまあ今回はこっちの方が手っ取り早いと思っただけなので。
「開店を急がれるのでしたら商業ギルドからも人を出しますので」
「その時はお願いします」
「ああ、それから冒険者ギルドの方にも行っておくといいかもしれませんな」
冒険者と言えば嵐の運び手の面々が浮かぶけど、帝国のギルドには知り合いは居ない。まあでも食事処やるならお客が増えるかもしれんしなあ。
「アリス、一緒に来てくれ。アインは商業ギルドで打ち合わせの続きを」
「かしこまりました」
「わかったよ!」
アリスがウキウキしながらついてくる。商業ギルドと冒険者ギルドは同じギルドセンター内にある。商業ギルドは三階だが、冒険者ギルドは一階だ。これは冒険者ギルドの方が登録などで人の出入りが頻繁なのと、買取の為の解体スペースが地下にあるからなんだと。ちなみに二階は職人ギルドらしい。
冒険者ギルドの受付さんはなかなかの美人さんだった。やはりこういう受付嬢は綺麗どころがやるものかな。商業ギルドの受付はどっちかと言うと歳がいった人の方が多かったなあ。
「……主様?」
「どうしたアリス?」
「いえ、なんでもありません!」
急に不機嫌になってしまった。パペットとはいえ女の子は分からん。
「いらっしゃいませ。どのようなご要件でしょうか?」
受付嬢が優しく声を掛けてくれる。
「おいおい、お前さんみたいなヒョロいのが冒険者なんて出来るのかよ!」
「そうそう、恥じ掻かないうちにとっとと帰った方がいいぜ!」
そんなヤジまで飛んできた。いやあまあ、ぼくも冒険者なんてやりたかないので全くその通りだと思います!
「あの、依頼を出したいんですが」
「はい、ありがとうございます」
受付嬢がにっこりと笑って応対してくれた。その時に一瞬、目がすぅっと細まって、先程のヤジを飛ばした冒険者たちを睨みつけた様な気がした。
「それで依頼というのはどのようなものでしょうか?」
「はい、実はこの度食堂を開く事になりまして、その為の一時的な手伝いと警備をお願いしたいと」
アリスやアスカが警備してもいいんだけどどうにも人が足りないからね。二人にはどっちかと言うと孤児たちが頑張ってるデリバリーの方に専念してもらいたい。
「それは構いませんが、給料はどのくらいをお考えで?」
「そうですね……日当で金貨一枚くらいですかね」
「……は? あ、ああ、月給が金貨一枚ですね」
「いえ、警備なんで危険手当も込みで日当で。あ、三食賄いと家賃無料でお風呂付きの住居もついてますよ」
「やります! 私がやります! ちょっとギルド辞めてきますので待っててください!」
ものすごい勢いで受付嬢のお姉さんが奥に引っ込んだ。そして言い争う声がこっちまで響いてくる。
「おいおい、お前に辞められると困るんだよ!」
「何言ってるんですか! こんないい条件さらさらないですよ! 今を逃す訳にはいかないんです!」
正直すまんかった。




