第八十話:二店舗目の出店
ちょっと駆け足?
「おい、ツマミはまだか!」
「いや、だからビール飲んだら帰ってくださいよ。ここは飲み屋じゃないんですから」
「良いでは無いか。堅いことを言うな」
「堅いことも何も、迷惑なんですよ。営業妨害しないでください」
「なんじゃと!? この我が邪魔だと申すか?」
「邪魔です」
生身のぼくなら威圧でどうにかなってたかもしれないが、今のぼくは分身体だからね。威圧なんて何処吹く風なんだよね。いや、画面見ててビクッてしたけど。
「我は諦めんぞ!」
「いや、諦めるとか諦めないとかじゃないです。迷惑なんで引き取って貰えますね?」
「誠に申し訳ありません。さあ陛下、帰りますよ」
「いや、我は美味い肉を食うまでここを動かんぞ!」
どんだけ駄々っ子なんだ! やれやれ仕方ない。なんて肉を出したら思う壷だ。だがぼくはあえてその肉を出そう。ついでにビールもだ。
「おお、気が利くではないか」
だが、皇帝陛下に飲み食いさせるとは言ってない。
「ヒルダさん。これ、良かったらみなさんで」
「まあ、良いんですか?」
「ええ、とても苦労していそうですし、皇帝陛下とアヤさん以外で分けてください」
「我のは無いのか!?」
「なんで私のも無いんですか!?」
そりゃこんだけ迷惑掛けてるのに皇帝陛下のなんてあるわけが無い。そしてアヤさんはいつもうちに来て飲み食いしてんじゃないですか。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
ヒルダさんがニコニコしながら食べ物とビールを受け取っていた。これは食事とビールが嬉しいのかそれとも皇帝陛下を虐めるのが楽しいからなのか。日頃から鬱憤は溜まってそうではあるけど。
「あ、王城には入れるように門番に言っておきますので配達する事になったらよろしくお願いします」
王城入りフリーパスを手に入れた? いや、注文された時だけか。というか皇帝陛下が我慢できなくなって注文すると思った訳ですな。
その後、喚く皇帝陛下を引きずってヒルダさんは帰って行った。アヤさんは残ろうとしてたみたいだったけどヒルダさんの部下の方々に引きずられていった。
そんな事があったけど、カレーの配達自体は好調で売り上げはぐんぐん伸びていた。そんなある日の事。再びアヤさんがぼくらの店に顔を出した。
「やっほー、お腹空いたー」
「いや、やっほーって。お金払ってくれるなら商品はお出ししますよ」
「またまた、私とみんなの仲じゃないですか!」
「お客様がお帰りだ。いや、金を払わないんならお客様ですらないな!」
「待って待って、勅命、勅命なの! これ、渡さないとまずいんだから!」
そう言ってアヤさんは羊皮紙を一枚差し出してきた。えーと、蝋で封印してるけど開けていいのか?
アヤさんは頭をこくこくと縦に振った。中に書いてあったのはどこかの住所である。場所は……王城がすぐ近くのいかにも貴族の屋敷ってところ。えっと、これは一体どういう?
「あ、えーとね、ここは皇帝陛下に逆らったバカ貴族の家だったんだけど」
「逆らったから取り潰しか」
「そうそう。世知辛いよね、貴族って」
いや、皇帝陛下に弓引かなきゃいいだけの話なんだが。名君かどうかはともかくとして革新的ではあるからそれについていけない奴が多いのかもしれない。
「じゃあ案内するからついてきて」
「仕方ない。アリス、アイン行こうか」
アリスはボディガード、アインは屋敷を見た時に何を準備するかを判断してもらうつもり。御屋敷の前はそこまで植物が絡みついたりする事はなかった。どうやらお取り潰しになって間もないらしい。
当然ながら屋敷の中にも誰もいない。そしてみんなで回ってここを料理屋として改装して欲しいと皇帝陛下が言っていたとの情報が入った。
まず、扉を開けると貴族らしく広いエントランスが現れた。もちろんこのままでも構わない。しかし、料理屋をやるとなればきちんと座る座席の準備とかもやっておかねばなるまい。
「よく考えるとここって冷蔵庫ないんだよなあ」
冷蔵庫を使う為にどうすれば良いか考えてネットスーパーを見てみた。そうすると「ソーラーパネル」が売ってあった。これを設置すれば設置出来るかも。いくつか買って屋根に設置。山や森を切り崩して設置なんてするわけが無い。
「厨房は……ガスコンロでいいか」
さすがにオール電化住宅とはいかない。ガスコンロならボンベ次第でいつでも出せるってのは分かってるよね? まあここは調理済みのやつを出すだけでいいんじゃないかな。
「さて、ビールはともかく、どんなおつまみを売るべきかなあ」
皇帝陛下は肉肉うるさかったが肉ばかりというのも味気ないからなあ。ボツになった焼き鳥でもいいんだけど、ゴミが出るからなあ。ゴミが出にくいのは……そうか、唐揚げがあったな。




