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第七十九話:こういうのも御幸って言うのかね?

皇帝再び

 「いらっしゃいませ!」

 「おい、マモォールは居るか?」

 「ええと、あの、ご注文は」

 「だからマモォールを呼べ」

 「その、後ろにお客様も控えておりますし、ご注文いただかないと」

 「だからマモォールを呼べと言っておるのだ! この我が誰かもわからんのか!」

 「ひいい、すいませーん!」


 表の方で何やら騒ぎがする。全く、ここのところ売れ行き好調だったのに誰かイチャモンでも付けに来たのか? いやまあそういう展開は別に予想してなかったわけでは無いからアスカとアリスに任せてしまおう。


 「じゃあ二人とも、ちょっと対処よろしくね」

 「かしこまりました、主様」


 やれやれ、儲かるってのもいい事ばかりでもないなあ。口コミのせいもあってか売れ行きは好調。デリバリーで届くのが新鮮で面白半分で頼む人が、味をしめてリピーターになってくれることも多々ある。中にはこないだみたいに女の子に、そしてごく稀に男の子にイタズラしようとする客も居るけど、転移からのフルボッコで問題は解決している。だからこんな風に店頭に直接来るのはあまり意図してなかったんだけど。


 「あの、主様」

 「ん? どうしたの、アリス。さっきの迷惑な客は?」

 「主様にお客様です」

 「は?」

 「酷いでは無いか、マモォール!」

 「……なんでまた普通に街中歩いて来てるんですかね、皇帝陛下?」

 「水臭いのう、我とマモォールの仲ではないか」


 どうもこの馴れ馴れしいオッサンが皇帝陛下という事に一堂は驚きを隠せないらしい。いや、一度来てるんだけどね。まあこの間は奴隷のみんなは買われたばかりだったし、カップ麺と焼き鳥とビールかっくらって千鳥足で帰ったけどね。


 「で、今日は何の用事ですか?」

 「何を言っておる、またあのびぃるとか言う酒が忘れられんでのう。前のワインも良かったが、びぃるは格別じゃな」

 「いやあの、うちは別に大衆酒場では無いのでビールは出してないですよ」

 「なんだと!? あんな焼き鳥にピッタリのものを出さないとは食に対する冒涜であるぞ!」

 「いやだから、焼き鳥でもないんですって」

 「なぬ?」


 そう言うと皇帝陛下はそのまま入り口にお周りになり、カレーという文字を見つけて戻ってきた。


 「カレー……であるか」

 「はい、カレーです」

 「肉は無いのか?」

 「少しでしたら入ってますよ」


 さすがに具なしだとあんまりなので野菜も肉も入れてある。具だくさんのゴロゴロカレーだ。


 「食いでがないのう」

 「いや、普通にナンも食べたらお腹膨れますよ」

 「我は肉が食いたいのだ!」


 わがまま放題言われてもうちは肉屋では無いので出しません。というか出してやる義理も無いよ。


 「何故焼き鳥では無いのだ!」

 「いや、この街、ポイ捨てにえらく厳しいからゴミが出る様な持ち運びしやすい食べ物はあまり流行らないんですよ」

 「なんと! むむむ、法律制定の際にはその様な弊害は考えておらなんだ。これは早々に廃止するべきか?」

 「いやいや、街が綺麗なのはいい事じゃないですか。せっかく根付いたのに」


 縛り首はやりすぎな気もするけど罰金刑だと守らない様なやつには確かに効果覿面だ。


 「ならば肉も食える店を出すのだ!」

 「いや、このカレー屋も始めたばかりですし、そう簡単には」

 「店ならば我が見繕ってやる! これは勅命である!」

 「勅命も何もぼくはあなたの部下でも家臣でもないんだから聞きませんよ」

 「むむむ、確かに。で、では、この通りだ、頼む!」


 いや、いきなり土下座されても。というか皇帝陛下がそんなに簡単に膝を屈してもいいのかよ?


 「我は美味い食い物のためなら躊躇わん!」


 一本筋が通ってるのか、それとも一本ネジが抜けてるのか。仕方ないからそのうちって事で約束だけした。そうこうしてたらヒルダさんとアヤさんがやって来た。


 「陛下、なんでこんな所に居るんですか?」

 「息抜きじゃ、息抜き」

 「はめれすよへいは、ひゃんほひるだにひはないと」

 「……アヤは口の中のものを飲み込んでから言いなさい」


 アヤさんは店頭でカレーを買ってそのままここに食べながら入ってきた。デリバリー専門だっていうのに。目の前の私に届けてってとんちかよ。


 「それはさておき、皇帝陛下、さすがにお付の侍従をまいてまでここに来るのはどうかと思いますよ。なんなら届けてもらってください」

 「皇城にデリバリーで入れると思うか?」

 「いえ、思いませんね。うちの門番は優秀ですから」

 「やっぱりダメではないか!」


 いや、そこ、夫婦漫才は帰ってからやってください。一応バックヤードだから外には漏れませんが間違いなく営業の邪魔ですから。


 「だからびぃると焼き鳥があれば帰ると」

 「無いから諦めてください」

 「そんなの納得いかん!」


 なんで皇帝って生き物はこうわがまま三昧なんだろうか。これは長引きそうだなあ。仕方ない。一杯だけな。


 「そうそう、この黄金色の飲み物! これがええんじゃ」


 皇帝陛下はごきゅごきゅと喉を鳴らしてビールを飲み干す。

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