第七十四話:やはり貴族か。私も同行しよう。
まだ殴り込みには行きません。
金貸し屋のボスが正座して滔々と話す事には、裏社会にコネのある貴族があのシスターレナさんに目を付けて手に入れようと前の院長に借金をさせたらしい。
いやいや、それってレナさんがまだ孤児院に居る時の話だよね? シスターになる前じゃ。なになに、ロリコンなの?
「それで院長にレナを借金のかたに寄越せと言ったら自分の財産を使って借金返しやがったんです」
そうか。それで借金が無くなったと。それじゃあレナさんには手が出せない……ん? それだと今の借金はどこから?
「次は院長が流行病に罹った時。レナに言葉巧みに近付いて院長の薬代を貸してやったんだ。だがその借金も院長が代わりに返しやがった」
流行病になったのは偶然だが、金貸し共は付け入る隙を虎視眈々と狙ってたってことか。
「だから返済金が足りねえって事にして、孤児院の院長が不幸な事故でくたばった時に借金を請求してやったんだよ」
「じゃ、じゃあ、孤児院の借金は」
「へっ、でっち上げだよ。金額なんてどうとでもなるからなあ」
下品な笑いを浮かべる金貸し屋。気持ち悪い。
「ぎゃん!」
「何がおかしいのかな?」
「ひっ」
「お前の笑いで主様が不快になってるじゃないか! 死ね、死んで詫びろ!」
「おぶっ、へごっ、ぐぎゃっ」
「アリス、死んじゃうと証言取れなくなるから」
「はぁい」
ぼくの気持ちを察したのかアリスが金貸し屋をボコボコに蹴りまくる。そのままだと死んじゃうから止めたけど。
「それじゃあその貴族の名前、教えてくれるかな?」
アスカがにっこりと微笑んだ。いや、にっこりと言うよりはにちゃあと言う方がしっくりくるかも。
「はい、エンシュラウド侯爵様です」
どうやらそいつがロリコンらしい。孤児院の件を何とかするにはその元から何とかしないといけないんだろうなあ。
「ご主人様、殴り込みますか?」
「いや、貴族の屋敷に殴り込むとかどんだけ……」
「なんなら跡形もなく消し飛ばしても」
「働いてるメイドさんとか下働きの人たちまで一緒に消し飛ばさないで!」
これ以上は帝国の仕組みの問題だろう。借金を捏造させた貴族がどんな罪に問われるのか分からない。中には「貴族だから正しい」みたいなところもあるからなあ。ぼくらは帝国がどんなところだか分からないもんね。
「じゃあ金貸し屋さん、この証文は貰っていきますね」
「そ、そんな事をしてもまた再発行すれば」
「その時はまた殴り込みに来るね」
「ひい……」
ぼくらは証文を手にそこから去った。孤児院に戻るとレナさんたちが迎えてくれた。
「大丈夫ですか!?」
「あ、いや、その、あの、これ」
ぼくはおずおずと借金の証文を取り出した。
「あの、これは……あっ!?」
「もう、借金、ない」
「ありがとうございます! でも、いいんでしょうか。借りたお金は返さないと」
「ほ、ぼほ、ぼ、ぼぼ、ぼく、ぼくらが、返し、といた」
「何と……ありがとうございます! あの、それでお望みなのはやはり私の身体……なのでしょうか?」
いっ!? なんでそうなるの!? いやいやいやいや! ぼくは、子どもたちが可哀想だったから、しただけで、シスターの身体とか、なんだ、その、怖い。やっぱり三次元の女怖いよぉ。
「主様は子どもたちのためにやったの。あなたじゃない!」
アリス、それはそれでロリコンとか思われそうなんだけど。いや、小さい女の子だけじゃなくて男の子たちの為でもあるのよ。
しかし、金貸し屋の話が本当だとすると貴族を何とかしないとレナさんが狙われ続けるんだよなあ。かと言って貴族なんてどうにも出来ないだろうし。所詮ぼくらはこの国ではちょっと振り向いてみただけの異邦人だからね。
それでも出来ることはある。とりあえず孤児院の子どもたちにご飯とお風呂を用意してやる事だ。乗りかかった船だからね。それだけの事はしてもいいんじゃないかな。大人は自業自得だけど子供がこんな目に合うのは理不尽だから。
「ぼくはご飯作るからアスカはお風呂を作ってあげて。アリスはぼくのそばに」
「はい、主様!」
アリス居ないと子どもたちが寄ってきた時とかどうにもならなそうだからなあ。ちなみにご飯を作る、とは言ったが、一から作るわけじゃあない。冷凍食品と言う文明の利器が……あっ、電子レンジ!
「アリス、アスカ呼んできて」
「そんな!? 私よりもアスカの方が……やはりおっぱいですか?」
「アスカに転移させてもらわないと家の電子レンジ使えないから!」
すったもんだでアリスとアスカが交代。お風呂は外形出来てお湯を入れるところまで終わったのでアリスに孤児院の子どもたちをお風呂に入れて洗って貰った。




