第七十話:方針転換、次はローストチキンだ!
もも肉にかぶりつくのやめられません。
さて、なんだかんだで開店である。焼き鳥屋は帝国では初めてだから客が来るのかどうかは分からない。とりあえずいくつか作り置きはしておくけど。
予め焼いておいて、注文が入ったら炙って温める。いわゆるコンビニ的な売り方だよ。本当は家で各々であっためられたら良いんだけど、各家庭に電子レンジなんてないからなあ。かまどはあるけど、薪代がかかるし。なんか魔石コンロとかもあるらしい。ただ、魔石自体が高価なので貴族しか持ってないとか。
「いらっしゃいませ! 新装開店の焼き鳥屋です! 一本銅貨十枚です!」
帝国の通貨も王国と同じ。お互いの貨幣をごちゃ混ぜにしても使えるらしい。どちらかの経済が悪化したら混ぜ物が多くなると思うけど、今のところはそういうのは無いんだって。というかそんな事したら商人にそっぽ向かれて国から居なくなっちゃうかもだから余程のバカでもないとしないらしい。
「へえ、随分安いが……ん? 一本がこの大きさなのか?」
「あ、はい、そうです」
「それだと満足する量になるまでかなりかかりそうだな。やめとくよ」
「あ、ありがとうございました」
どうやら量的な問題であまり芳しくないらしい。という事は王国よりも貧しいのか? いやでもそんなに差は無い様な気もするけど。
「何やら珍しいものがあるな」
「あ、はい、焼き鳥と言います。おひとつどうですか?」
「いくらだね?」
「一本銅貨十枚です!」
「ふむ、安いな。あまりいい肉は使ってないんだろう」
「あー、まあ」
いい肉なのかどうかは分からない。家の周りを飛んでる鳥だから手に入れるのはそこまで手間でもないし。価値は知らん。
「まあ庶民相手に頑張るんだな」
「あ、ありがとうございました」
今度は安くて得体がしれないから買わないと。一体どうなって……ああ、貧富の差が激しいのか。
貧しい人は少ない元手で腹いっぱい食べないといけないから焼き鳥みたいなのはコストパフォーマンスが悪い。
一方で裕福な人はきっと美味を求めるから焼き鳥の安さが胡散臭さになるんだろう。これは……ちょっと考えないといけないかもしれない。
「よし、アイン。焼き鳥のサイズを大きくして串も外してローストチキンにするぞ。そして値段も銀貨一枚だ」
「チキンではなくてロックバードでは?」
「いや、料理の名前がローストチキンだから鳥の種類に関係なくローストチキンだ。それにこの世界にチキンなんてないだろ?」
養鶏とかしてないのか玉子もないんだよなあ。肉は野生の鳥を捕まえて食べるのが主流とかで玉子も森で盗ってくるんだって。待てよ? という事は玉子料理とか無いのか? いや、うちにも玉子ないけど。
日本の玉子は殺菌とかとても優秀だから生でも食べられるけど、日本じゃない国は生で食べないでよく焼くもんなあ。すき焼きとかで生玉子につけて食べるのは異常なんだよなあ。あと、TKG。
さて、それじゃあローストチキンで仕切り直し……余った焼き鳥? 別にみんなで食べても良いけど。ん? なんかこっちを見てる子どもがいるって? あー、子どもの小遣いだとちょっと手が出ないのかな? アイン、呼んできて食べさせてあげて。
「分かりました。ですがあの子たちは」
「どうせ余るんだし、みんなに売れ残り食べてもらうのはどうかと思うし。だからタダであげちゃっていいよ。ほら、肉の元手はタダなんだから」
正確にはアスカとかアリスとかが頑張ってくれてるからタダというのもどうかと思うけど、ぼくがお金払って調達してる訳では無いからタダ。
「では、ご主人様が声を掛けてあげてください」
「え? いや、そんな……ちょっと、そういうのは……」
「さあ、早く」
ううっ、アインって割とぼくに厳しいよね。仕方ない。
「そこの子達、こっちにおいで」
「な、なんだよ、何も盗ってねえぞ!」
「おにーちゃん、おなかすいた」
「ばか、今言ったら俺たちが盗ろうとしたと思われるだろ!」
「でも〜」
なんか言い合ってるけど、ここは一気に言ってしまうかな。まだ子どもだから話しやすいし。
「あ、あのね、ここにあるのは売れ残りだから君たちで食べてくれるかな?」
「は? こ、これ、全部食べていいの?」
「うわぁい! 食べる食べる!」
「ま、待てよ、俺たちに優しくしてどっかに売ろうってのか? そうはさせねえぞ!」
ぼくは人さらいと間違われているのか。ううむ、でも今更「じゃあやめた」なんて言えないし。というか、小さい女の子の方がひもじそうにしてるのは偲びない。
「今ここでじゃなくて持って帰ってくれてもいいから。ほら、これあげるよ」
そう言ってぼくは紙袋に火入れ済みの焼き鳥をタレと塩に分けてドバドバ詰めて、男の子に渡した。
「え? あ? なんで?」
なんでって言われても子どもがお腹空いてたら可哀想じゃないか。ぼくでもそれくらいの事は思うよ。大人は怖いけど子どもならそこまで怖くないし。




