第六十四話:寒い夜にはおでんだね
なんというか、おでんが食べたくて。
そんなこんなで王妃様のお披露目というか快気祝いが終わって別れを惜しまれながらぼくらは帰途に着いた。ぼくは部屋から一歩も動いてないんだけど。あ、ごめんなさい、風呂とトイレと湯切りは行ったよ。
んで、アリスが獲物を捕ってきてくれたり、畑仕事をしてくれたりした。ついでにちょっと畑も広げてもらった。冬に向けて準備しないといけないから備蓄の野菜を増やさないと。
「護君、この家の周り、自由に気温とか湿度とか調節出来るよ? 今は快適になる様に自動的に設定されてるけど」
な、なんだってー!? そんなトンデモ機能ついてんのかこの家……という事は雪がしんしんと振り積もって周りが堆く雪に埋もれていてもここはそんな事関係無しに畑仕事出来るって事か。
「えっ? じゃああのエアコンはどういう……」
「外を寒くしてガンガンにヒーター効かせて食べるアイスって美味しいよね」
コタツでも可。いや分かるけど! 夏の暑い日にガンガンにクーラー効かせて食べるおでんとかも美味しい。最近はコンビニであまりおでん売らなくなっちゃったよなあ。
「よし、今日はおでんにしよう。おでんなら料理出来なくても大丈夫だし」
「分かりました主様。では畑に行って野菜を採ってきます!」
「あー、アリス? 野菜は採って来なくていいよ。ステイだよステイ」
「え? ですがおでんとなれば大根とか」
「おでんパック買ってるから。これを鍋に入れてあっためれば良いよ」
「分かりました! お任せ下さい」
アリスが妙にやる気だ。なんでもこれまでもぼくの食事の準備というか世話をしたくて仕方なかったらしい。でも、ここ最近はカップ焼きそばだったから出番がなかったのだとか。自分で料理? やりたくない。パスタ茹でてミートソースあっためて掛けるくらいならいいけど。
んで、部屋の中をクーラー効かせておでん鍋をセット。あまりクーラーわ強くするとおでんが冷めちゃうから程々に。
グツグツ鍋で煮込む。パペットのアリスは食べれない事も無いがフォルテは食べてもサイズが小さいからなあ。三人分は要らないと思う。弱火でじっくり、でも煮崩れしない様に注意する。それが美味しいおでんのコツ。
さて、まずはロールキャベツ。本来おでんには入らないんだろうけど、こういうのも良いよね。あまり煮すぎると分解しちゃうから早めのサルベージを試みる。うんうん、元のおでんパックの時点で調理済みだから少し火を通してあっためた時点で十分。
次は厚揚げ。豆腐よりも厚揚げ。油揚げと豆腐の良いとこ取り。味がしみて美味しい。元々豆腐は好きなんだけどおでんだと形が崩れやすいからね。厚揚げなら形そのままに食べられるのがいいよね。
続けてこんにゃく。食感が好きで好んで食べてるけど、元のこんにゃく芋にはお腹を下す毒性があるらしい。だからこんにゃくを作るのに毒抜きをしないといけないんだと。毒をアルカリ処理して食べられるようにする涙ぐましい努力を口の中に放り込む。カラシを付けて食べるとより一層美味しい。
たまご。皿にとって、半分に割ってそこにスープを掛けて食べる。黄身は半熟より固茹での方がおでんには似つかわしいと思う。おでんの中にはだし巻き玉子を入れるところもあると聞く。いや、そのまま食べろよって思っちゃうんだけど。それ言うと茹で卵なんだからそのまま食べればいいって。まあそこはそれ。煮物には固茹で卵。
煮込んだ牛すじ。串に刺してあるやつもあるけど、ぼくはそのまま煮込んでます。すじ肉だからかなり煮込まないとダメなんだろうけど、おでんパックのはちゃんと予め煮込んであるから問題なし。歯ごたえが堪らないよね。
そして大根。しっかり味のしみた大根はもはや反則。たまに大根買ったら全然煮えてないってのがあるって聞くけど、煮崩れ寸前まで煮込まないと大根は美味しくならないと思うんだよ。箸ですっと切れるくらいの柔らかさ。
そんなこんなでおでんを楽しんでるとみんなが帰ってくる。アインが見るなり「おでんですか……まあカップラーメンよりはマシですね」などとぽつりと呟いた。ふっふっふっ。それを見越しておでんにしたのだよ。……命令されるとかそういうのじゃなしに体調の心配されるからね。
そしてちゃっかりいつの間にやら現れて交じってるアヤさん。仕方ない、アインにご飯作らせるのもなんなのでおでんパックを渡そう。鍋で茹でるだけの簡単なお仕事です。という事で後はよろしく。
「アヤさん、一体今日は何しに来たんですか?」
「王国だけじゃなくて帝国でも商売して欲しいと陛下が。営業許可証ももらってます」
どうやらアヤさんが王国での顛末を話したらしい。それで羨ましくなって皇帝陛下が連れて来いってなったらしい。いや、欲しいならアヤさんに預けるよ?
「私だと食べ物とか帰る途中で食べちゃうのでダメだって言われました」
信用ないなあ。あ、いや、ある意味信用されてるのか。絶対やるって。




