第六十一話:ちょうどいいタイミング
王妃様に成長促進型を使うと老化が早まるから却下なのです。
戻ってきたリンさんの身体は程よくしぼんでいました。うん、胸部装甲の部分もね。
「私の……巨乳……」
「いやあ、残念ですねえ! わ、た、し、は、ちゃあんと手に入れましたけどぉー」
「むきぃー!?」
アヤさんがリンさんに見せつけるように胸を押し付ける。精神的ダメージが来るんだろうなあ。頼むから家の中で取っ組み合いの喧嘩とかしないでくれよ?
「アミタさん!」
「はい、なんでしょう?」
「あのアヤさんが使った豊胸薬はちゃんと効くの?」
「ええ、本来は余分な脂肪を使うので脂肪を蒸発させるさっきの痩身薬使ったあとだと難しいと思いますが」
その言葉を聞いてリンさんはガックリと項垂れる。助けるのを遅らせた方が良かったのか? いや、それだと実験台にならないしなあ。本番は王妃様だもの。
「アミタ、しっかり使える様に改良頼むよ」
「わかったわ旦那はん」
「ほら、リンさんも。完成したらリンさんに実験してもらわないといけませんから」
「えっ? なんで?」
そりゃ痩身薬で痩せたのがリンさんだけだからだよ。豊胸薬も使ってたし。
それから一週間くらい試行錯誤を重ねてついに豊胸薬が完成した。早速王城に連絡を取るとあれよあれよという間にお城に連行された。登城を促されたとか言い方は無いのか。とか思ったが、文字通り、直接取りに来たのだ。
「こちらがその豊胸薬ですか?」
「はい、そうです」
「そちらで膝を抱えて部屋の片隅にいる方は豊胸薬を使ってないんですか?」
「実は理由があるんです」
豊胸薬、余分な脂肪を集めるやつをあの後塗っても膨らみが生まれなかったのだ。
「なんで、なんで、なんで、どして、どして、どおしてえ!?」
リンさんが暴れ回って魔法も撃とうとしていた。アスカが何とか対抗呪文使ってくれたので不発に終わったんだけど。それにしてもなんで豊胸薬効かなかったんだろう?
「あんな、旦那はん。あれは身体についとる余分な脂肪を移動させる薬や。せやけどその移動する分の脂肪がなかったらどないするん?」
その言葉を聞いてハッとした。無から有は生み出せないのだ。
「私は一体どうすればいいのよお。帰して、せめて実験前に帰してよ!」
「あー、せやったらちょい頑張ってタイムマシンでも作ろうかいな」
アミタがぎょっとする様なことを言う。起こったことを無かったことには出来ない。だから起こらなかった事にする、って事? 出来るか! ……出来ないよな?
「せやなあ、多分二百年くらいしたら出来るようになるんちゃう?」
それでも出来るのが凄いが、さすがにリンさんをそこまで待たせる訳にはいくまい。コールドスリープ? 起きた時に刺されても知らんぞ。
その後何度か実験して「蒸発型の痩身薬を使った後に脂肪集中型の豊胸薬を使っても脂肪が無いためなんともならないが、脂肪を着ければ可能となる」というのがわかった。
これはアミタが立てた予測にリンさんが全てを賭けて臨んだ訳だが……結果は大成功。リンさんはしばらく留まってもらって一日五回の食事を実施してもらい太ってもらった。体重計に無理矢理乗せてごめんなさい。
で、部屋の隅に居る理由は、くびれと巨乳は出来たものの、暴食の癖が治らなくてつまみ食いをしちゃうので頑張って耐えてるだけです。今アミタご頑張って食欲抑制剤作ってますからね。
「ですので王妃様は暴飲暴食はしないでゆっくり脂肪を増やして豊胸すればいいと思います」
「そうですか。ありがとうございました」
これで終わりにしたかったんだけど、ちゃんと効くか確かめる為にも王城に連れて行って結果が出るまで城から出られなくなるんだと。毒殺とかの疑いもあるもんね。やらないけど。
「アフターサービスに王城滞在中の食事は厨房を貸していただければうちのアインが作りますので」
「王妃様の食事は我らが役目。大人しくしていろ」
王宮の料理人の方々に咎められました。でも、この世界の料理って焼くか煮るぐらい。それも煮るのも味がしみない薄い味なんだよね。いや、ぼくにはカップ〇ードルがあるんでいいけど。
しかし、王宮料理人ではカロリー管理までできまい。デブとぽっちゃりのギリギリの線を攻めないといけないのだ。
「そこまで王妃様の食事を作りたいと言うなら我々と勝負してもらおうか」
「あ、それなら料理人のみなさんで王妃様の体重しっかり増えるようなメニュー組んでください」
「ええええええええええええ!?」
アインはさらりと言ってのける。まあアフターサービスであって別に王妃様に取り入ろうとか考えてないもんね。むしろぼくへの料理の邪魔だと思ってるかもしれない。
という訳でそれきり何事も起こらずお披露目の日がやって来た。王妃様は扉の向こうで待機してもらっている。そこにラケシスさんとアミタが豊胸薬を塗って巨乳とくびれを作るのだ。




