第六十話:実験実験成功失敗
いや、失敗では無いんですけどね。あえて言うなら人選を失敗したと。
アミタの「出来たで!」の声に敏感に反応したのはアヤさんとリンさんだった。赤くて角でも着いてるの?ってくらいの反応速度だったよ。
「そ、それで豊胸薬は?」
「ハリー、ハリー、ハリー!!」
そんな事言われても使い魔も出さなければ身体を変化させたり、ちぎれた足を再構築出来るわけでもないかろね。
「まあまあ、落ち着きいや。どの道二人にも試してもらうさかい」
アミタはニヤリと笑った。いやまあ確かに実験してくれる人は欲しかったんでちょうどいいんだけど。
「こいつはな、細胞分裂を促進して成長を助長するお薬や」
「さいぼう? ぶんれつ?」
アヤさんもリンさんもキョトンとしてる。まあ前世のぼくらの世界の生物知識なんてあるわけないもんね。
「まあ、要するに胸だけ成長するっちゅう事や」
「それは……なかなか」
ゴクリ、と喉をならす二人。
「そんでな、こっちが別バージョン。これは体内の脂肪を塗った所に移動させる薬や」
「それはどうなの?」
「お腹やら二の腕やら太ももやらに肉がタプタプについとったらこっちの方がええかもな」
ひっと息を呑むのがわかった。いやまあええんやない?
「そんで二人にそれぞれ一本ずつ試してもらいたいんやけど」
「あ、私が成長促進?の方で」
「あ、ちょっと、私の方がそっちよ!」
「いやいや、私冒険者ですから余分な脂肪とかないですし」
「そ、それを言ったら私だって軍人ですから余分な脂肪なんて」
アヤさんとリンさんが醜い争いを始めた。いや、どっちがどっちでもいいと思うんですよね。客観的に見てどっちが脂肪多いかと言えば……
「あ、では家主権限で決めますね。リンさんが成長促進でアヤさんが余分な脂肪で」
「そんな、横暴な!?」
「ほら、家主さんは私の方がスマートだって」
いや、単に成長度合いでリンさんの方が「幼い」かなと思っただけで。あと、アヤさんの方がここで食べる頻度が高いから贅肉ついてるんじゃないかなって。
「ほな、リンさんからいくで。その前に旦那はん」
「なんだ?」
「さすがに女性の胸を見たがるのはどうかと思うんよ、うちは」
おっ? そ、それは確かに。生身でないとはいえ女性の裸を見るのは失礼だな。責任取って結婚しろって……ないか。いや、アヤさんはそれで迫って来そうではあるな。
「旦那はんが見たい言うなら後でうちらがなんぼでも見せたるさかい」
「部屋の外に出てるわ」
アミタの裸なんて普通にパペットマスターで見れるんだよなあ。メンテナンスの時しか見ないけど。
それから部屋の中には三人しか居なくなった。ぼくは部屋の前で分身体を待機させたままにしてポテチを摘む。
しばらく待ってると悲鳴のような叫びが聞こえた。これはリンさんかな? こっそりカメラで覗いても良いんだけど、さすがに気がひけたので部屋の前の分身体を起動する。
「どうしたんですか?」
「あ、旦那はん、ちょい入ってもらってええ?」
アミタが入れと言うので中に入る。そこには腰の辺りがスマートにくびれて胸がそこそこ大きくなってるアヤさんの姿と、胸が異常なまでに膨らんで立てなくなってるリンさんの姿があった。
「えーと、これは?」
「ほら、見てください。私のこのスタイルを。いやー、こんなに素敵な薬とは思いませんでしたよ!」
満面の笑みを浮かべるアヤさん。一方のリンさんは涙目だ。
「最初は少し膨らんで、そんでだんだん大きくなって、アヤさんよりも大きくなって優越感に浸ってたんだけど……止まらなくてそのまま大きくなって」
それでこの惨状ということか。ここまで大きいとおっぱいとかボインとか以前に脂肪の塊だよね。セクシーさとか欠けらも無い。いや、確かにそういう同人誌とかエロ本とか読んだことはあるけど、ぼくには受け入れられなかったんだよ。
「な、何とかして貰えませんか?」
「ええと……そうだ、こないだの痩身薬を使おう! アミタ!」
「あ、はい、持ってきます」
「早く、お願い、こんな姿、トムに見られたくない……」
か細く涙声になりながらリンさんは嘆く。そこに様子を見に来たエルさんが入ってきた。
「リンちゃん、何があっ……」
「エルぅ……」
「なんだ、何の騒ぎだったんだ?!」
エルさんに続いて入ってこようとするトムさんとリックさんを締め出した。
「男どもは入るな!」
普段はおっとりな感じのエルさんの荒らげた声が掛けられ、ドアの外の二人はビクリと身体を揺らした。
「エル、私、私……」
「リンちゃん……あの、これ、何とかならないんですか?」
「旦那はん、持ってきたで」
アミタが痩身薬を持ってきてリンさんに飲ませた。白い煙というか水蒸気?が出てみるみるうちにリンさんの身体が元に戻った。
「はあ、良かったわ。でも汗が凄いことになっとるから風呂で汗流してな」
アミタに言われてバスタオルに包んでエルさんがリンさんを風呂場に連れて行った。




