第五十一話:再販売
あのままだと疑われるのでマイナーダウンです。
「正直に言えば、この痩身薬は使えませんね」
「なんでや! 旦那はんやってこないにスマートになったやんか!」
「これはスマートになったのではなくて、やつれた、いえ、こそげ落ちたと言うのです!」
まあ確かに余分な脂肪が取れた感じだもんな。こんなにガリガリになったのは記憶にもない。
「ご主人様ならアミタの事をわかっていますし、結果も受け止めることが出来るでしょう。ですが! あなたの事を知らない王妃様とやらがこんな風になったらどうしますか?」
「一気に痩せられて嬉しい?」
「おバカ! 十中八九、毒殺を疑われますよ!」
一国の王妃様ともなればそれなりに敵もいるでしょう。なんなら側室とかいるかもしれません。そんな中で王妃様がやつれたら……考えただけで震えが来ます。
「あー、うん。アミタ、ぼくもこの薬はやめておいた方がいいと思う。これ、効き目を弱くする事は出来るかい?」
「あー、せやなあ、三日ぐらいあったら改良出来ると思うわ」
「大量に発汗させる必要は無いから、少し新陳代謝を活性化出来ればいいんじゃないかな?」
アミタが研究室にこもった。その間に、ぼくらは焼き鳥を作っていく。沢山売れたけど、アリスを直すには足りないから何とか稼がないと。
「ご主人様、狩って来ましたよ!」
五羽のロックバードを捕まえてきたので解体……は、アリスがやってたなあ。アインも出来るらしいので問題ないが、早く直してやりたい。アリスの解体は素材全部何とかなるけど、アインのは食材確保だけだからなあ。
焼き鳥作りは作った端からストレージに保存。時間経過が無いって素晴らしい。あ、でも漬物漬けたりとかカレーやワイン寝かせたりとかは出来ないんだよなあ。
「えー、また王都に行くの?」
アヤさんが三回目のおかわりを要求したのは王都に行く二日前の事だった。
「食べ過ぎじゃないですか?」
「ここに来た時しか食べてないから良いんです!」
「二日に一回来てるじゃないですか」
とまあアヤさんの目的がぼくの籠絡だからそれはそれでいいんだろうけど。
「それでアインさんがいない間のご飯はどうしたら?」
「来なければいいのでは?」
「アインさん、酷い!」
いや、留守にするから来ないでくれって普通の通達で強制力も無いし間違ってないんだよなあ。
「アヤさんも売り子やります? ちょうど人手が足りなくて」
「や、あの、一応私、帝国の軍属なんですが?」
何を今更。それならアヤさんが今まで食べた食事の代金は帝国軍に請求を……
「やめてください、説教されてしんでしまいます」
「じゃあ手伝ってくださいね」
「はい」
アヤさんが居るので転移は使えない。馬車で出発。今回ぼくは運転出来ないからアインに……あ、こら、そっちにハンドル切るな! 落ちる、崖から落ちるから! お前らは大丈夫かもしれんがアヤさんが儚くなっちゃう!
「姉様、交代してください」
アスカが代わりに運転してくれた。さすがに足が届かない、という事は無かったようだ。アスカの背が若干高く見えるのは気の所為だろうか?
「よし、出発!」
斯くしてアインは再び王都へと降り立った。現地では、アインたちが店を出していたところに人集りが出来ている。
「随分と厄介な事になってるみたいです」
「それについてはぼくが説明しよう」
後ろから声を掛けたのは分身体のぼく。怪しくない程度にスタンドアローンで動かしてたからどうなってるのか気になる。
「まず、いない間に宿屋まで押し掛けてくる人間は居ませんでした」
なるほど。つまりその辺は掴まれてないということか。
「商業ギルドで屋台とは別に手に入らないか、どこで捕っできたのかは何度が尋ねられました」
貴族から突き上げを受けたのかもしれない。いや、焼き鳥は庶民の味方ですよ?
「もっとも冒険者に森で狩って貰ってると言ったら静かになりましたけど」
どうやら家の周りはそれなりの危険地帯で殆ど誰も近付かないようで。それにしちゃ侯爵令息とか第二王子とかよく来たよね。
「宮廷魔道士や騎士団がいれば真っ当な魔物はちかづいてこないですし」
「数の暴力ってやつか。さもありなん。でもまあそれ考えると嵐の運び手の皆さんは優秀なんですね」
アヤさんが言うとその肩をポンッと叩かれた。
「アヤさんも来られたんですか? 帝国の人間が大丈夫なゆです?」
「私が聞きたいです」
嵐の運び手の皆も討伐を終えたばかりで時間があるってことで臨時従業員として採用しました。まああれだ。食った分は働けってやつです。
「また寄らせてもらいますよ」
豪奢な馬車からラケシスさんまで降りてきた。
「あ、ラケシス様。薬は用意させていただきました。販売が終わったら御説明しましょう」
「待ち遠しいわね」
さあ、新装開店です。




