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第四十九話:公爵令嬢

「公女」だと「偉い人の娘」なので正確を期す為に「公爵令嬢」にしております。

「お断りします。帰ってご主人様にご飯を作らないといけないので」


 執事に淡々とアインは答える。まあ店じまいにはまだ少し早いから応対してもいいと思うんだけど。ぼくのご飯が遅くなるくらいはいいよ。なんなら今日もカップラーメンでも……


「ご主人様の健康に多大な被害が出そうなので却下です」


 そうですか。あ、でもほら、そこの執事さんがなんかプルプルしてるよ?


「貴様! 王妃様のご命令が聞けないと言うのか!」


 王妃様命令してたの? さっき馬車が王妃様のだから命令だとか言ってたな。バカなの?


「申し訳ありませんが、店じまいです。一昨日ご来店ください」


 おとといきやがれを丁寧に言われても。ほら、執事がさっきよりプルプルしてるから。


「貴様ら、いい加減にしろ! おい、騎士共、こいつらをひっ捕らえろ!」

「は? しかし、この者たちは何も罪を犯していないのでは?」

「王妃様に逆らったのだ。不敬罪だ、不敬罪!」


 嫌そうな顔をしながらも不敬罪を持ち出されては騎士たちも動かない訳にはいかなかったのだろう。騎士たちは剣の柄に手をかけた。仕方ない、アスカ、あの馬車ぶっ飛ばしたら大人しくなるだろうからそっちから……


「お待ちなさい!」


 凛とした声がそこらに響いた。


「なんだと! 誰に向かって文句を」

「単なる執事のあなたが私よりも偉いとでも?」

「ユ、ユーフェミア公爵令嬢様!?」


 おいおい、なんか公爵令嬢って出て来たんだけど? 前にうちに攻めてきたのも公爵……いや、あっちは侯爵マーキスか。こっちは公爵デューク。ややこしい。


「分かったのなら下がりなさい」

「し、しかし王妃様のご命令は……」

「あなたが勝手に言っていることでしょう? なんでしたら私から王妃様に申し上げても構わないのですよ?」


 ん? という事は王妃様はあの馬車に乗ってないの? つまり、あれはハリボテって事か?


「くっ、わ、分かりました。ですが王妃様のご命令はそこの「食べても太らない肉」を手に入れること。これは絶対です」

「あのおおらかな王妃様がそんな事言うものですか。せいぜいが「私も食べてみたいわ」程度でしょう。拡大解釈が過ぎますよ」

「くぅー!」


 どうやら公爵令嬢の方が何枚も上手の様だ。状況を整理するに、王妃様が「そんなものがあるなら食べてみたいわね」なんて言ったのを「私は気が利くから手に入れろと言われたに違いない」とか暴走して来たのだろう。


「どうしても、というなら王妃様には私からご献上差し上げるわ。ほら、帰りなさい」


 執事は公爵令嬢にやり込められてすごすごと帰って行った。そしてアインたちの方に向き直った。


「我が国の者が大変なご無礼をいたしました。心からお詫び致します」

「いえ、構いません。ご主人様も貴女に否は無いと仰っております」

「そちらに居られるのがご主人様ですね。私はこの国の公爵令嬢、ラケシス・フォン・ユーフェミアです」


 見事なカーテシーをぼく(の分身体)に披露してくれた。これって元々は身分が下の者が上の者にする動作なんだけど、ぼくらの事を格上と思っているのか、それとも異世界だから常識が違うのか。


「それでそちらのご主人様のお名前をお聞かせいただけますか?」

「あ、はい、初めまして。マモル、と言います」

「マモル様ですね。改めてよろしくお願いします。それでご相談があるのですが」

「お断りします。帰ってご主人様のご飯を作らねばなりませんので」


 アイン、それは今言ったらヤバい! そのお嬢様にとっては「ご主人様」は目の前の分身体なんだぞ!


「でしたら、私どもで晩餐を用意させていただきますので話を聞いていただけませんか?」


 アイン、その話を受けなさい。ぼくは……カップラーメンじゃなくてデリバリーにしとくから。ちゃんとサラダも食べるから。


「……分かりました。話を聞きましょう」

「ありがとうございます。ではまず王妃様の事について聞いていただけますか?」


 どうやら前フリが付くようだ。長い話になるかな?


「この国の王妃、タチアナ様はとても太りやすい体質でして。王様との晩餐の度に王様からだらしない身体を何とかしろと言われております」


 それは……なんというか……他人事とは思えない。ぼくも実家で何度となく言われた事だ。いやまあぼくの場合は完全にぼくが悪くて、自業自得だったんだけど。


「ですが、王妃様はそんなに食べてないのに太ってしまうのです。なぜだか分かりませんが」


 ううん、多分ストレスから来る代謝低下なんだろうけど、この世界の人はそんな事わからんだろうからなあ。


「そんな時、食べても太らない焼き鳥なる食べ物があると聞いて藁にもすがる思いで来たのです。どうか王妃様のためにその焼き鳥とやらを作ってはいただけないでしょうか」


 真摯に頭を下げる公爵令嬢。よっぽど王妃様のことが心配なんだなあ。

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