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第四十七話:行列の出来る焼き鳥屋

まだ売るんじゃよ

 「せめて二本で銀貨一枚くらいにしてもバチは当たりませんぜ」

 「それをすると最初に売ったお客さんたちが次に買いに来た時に困りますから」


 それに肉もそんなに消費しない。ロックバードは大きいのだ。ニワトリを消費するのとは大違いだ。高いと買って貰えず、消費も出来ない。冷蔵庫に保存なんてここでは出来ないだろうし。やはり焼きたて、炙りたてを食べさせないと売れないだろう。


 「それにあなたたちは金も払わないで食べてましたよね?」

 「そりゃあまあ。お金も請求されませんでしたし」

 「ご主人様が「お金なんていい、いい」って仰るから取らなかっただけです。ご主人様に感謝してください」

 「それはまあ、分かってますよ。いつもありがとうございます、ご主人様?」


 いや、百歩譲ってエルさんやリンさんが呼ぶのは構わないけど、体育会系的な男性のリックさんにご主人様って呼ばれるとなんかこう、気持ち悪いな!


 「気にしないでくれ」


 分身体のモニター越しでも気持ち悪さは変わらないらしい。いや、もしかしたら直接言われたらもっと気持ち悪かったかもしれない。


 焼きあがったのでリックさんに焼き鳥を渡して帰らせる。それから三十分もしないうちにリンさんとエルさんが駆け足で来た。

 「アインさんの焼き鳥はここ!?」

 「食べる、私も食べる!」

 「お二人は試食無しで」

 「なんで!?」

 「いつも食べてるじゃないですか」

 「私たちが食べたものよりも種類増えてるんだけど?」


 そりゃあみんなには一番多いもも肉しか出してないもの。


 「仕方ないですね。食べたことの無い串なら無料で一本サービスしますよ」

 「本当か? じゃあこのデカいのにしよっと」


 リンさんが手羽先に飛びついた。


 「うわっ、うまあ! これ、皮はパリッとしてるのに中身がふんわりとジューシーだよ! ねぇねぇアインさん、ビールある?」

 「昨日リンさんに飲まれたのでないです」


 どうやらいつの間にやらビールまで出していたらしい。ぼくはビール飲まないのにちょくちょくオススメに現れるからなんかと思ったわ。アインは食品関係なら自由に買えるようにしてるからなあ。


 「またまたー、ほら、内緒にするからさ」


 可愛らしくオネダリするリンさん。こんな顔でお願いされた時に折れてはろくな事にならないって経験則で知ってる。こういう頼み方をするやつはなんか迷惑な事やトラブルが起きた時に「バレちゃった。ごめんね」の一言で済ませるんだ。


 「ご主人様の許可が出ませんのでここではダメです。まあまたうちに来るなら考えなくもないですが」


 そこは考えることも無くノーって言う場面じゃないの? まあこの世界の人の味覚に合うように料理を調整するにはある程度の味見役は必要なんだけど。


 「じゃあ私はこれを貰おうかな」

 「それは胸肉ささみと言って脂が少なく、太りにくい部位ですね」

 「太らない……」


 この世界の冒険者って肉体労働だから太りにくいんじゃないかと思うんだけど。それでも太りにくいという言葉には女性を本能的に虜にする魔力があるのだろう。


 「えっ!? なんで? 太らない食べ物って美味しくないって聞いた事あるのに!」


 どうやら太らないって事に誘惑されたんじゃなくて、「太らない食べ物は不味い」って情報を知ってたけどアインさんのご飯は美味しいよなあみたいな葛藤があったらしい。


 なお、「太らない食べ物」はお貴族様御用達なんだそうだ。まあ貴族はだいたい肉体労働しないし、パーティで食べる事も仕事だろうからね。


 そして二人はさんざん食べて喋って去っていった。リックさんは多分全員分買ったのに、二人はお土産買わずに帰って行った。


 そんな二人の食べっぷりが良かったのか、焼き鳥は行列が出来るほどに売れた。銅貨とか銀貨とかポンポン入ってくる。元手は家の周りの鳥と、そこら辺の木を切り倒して作った串、後は塩とタレの材料だけだ。炭も串を作る時の端材だもんな。


 夕方過ぎると今度は冒険者っぽい男たちが買っていく。お陰で夜になって帰れなくなってしまった。


 「申し訳ありません、ご主人様。帰れないのでご飯が作れなくて」

 「いいよいいよ。ぼくはカップラーメンでも食べとくから。まだ肉はあるんだろ? そっちに泊まってまだ売ってきたらいいよ」

 「ご主人様がそう仰るのでしたら」


 まあアインもアスカも居ないけど、なんて事はない。


 「こんばんはー! ご飯食べに来ました!」


 こんな時になんでアヤさんが来るんだ? 入れないのは不親切だし……このまま帰ってくれないかなあ。


 「なんやいつものタダ飯ネーチャンやないか」

 「えーと、アミタさんでしたっけ?」

 「せや。なんや姉ちゃんらは近くの街に泊まってくるから帰れんそうやで」

 「あーそうなんですか」


 アヤさんはガックリと肩を落とした。偉いぞ、アミタ!

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