第四十六話:焼き鳥はいいぞ
そのうちビールも売るかもしれません(笑)
「な、なんじゃこりゃあ!?」
鶏もものタレを食べた男は素っ頓狂な声を上げた。
「甘い、そして歯ごたえもすげぇ。美味いぞ!?」
「そうですか」
どうやら醤油の味はこの世界でも受け入れられそうだ。いやまあ、リックたちが鯨飲馬食してたから大丈夫だろうなとは思ったけど。
「お、おい、これは一本いくらだ?」
「銅貨十枚です」
銅貨一枚が約十円。銀貨一枚が約千円。だいたい焼き鳥チェーン店のお値段だと思う。コンビニでもそれくらいだったし。
「貴重なロックバードの肉がその値段で!? よし、三十本ほどくれ!」
おおう、ロックバードの肉が貴重品だと? そんな話は知らないし、なんなら家の周りをウザいくらいに飛んでるぞ?
「かしこまりました。タレでよろしいですか?」
まあともかくお客様だ。買ってくれるのはありがたい。
「タレで? それ以外にもあんのか?」
「ええ、タレの他には塩もありますが」
「塩!? なんでそんな貴重品が屋台に!?」
どうやら塩も貴重品だったらしい。まあ以前読んでた異世界ものでも胡椒だけでなく塩も貴重品なやつはあったもんなあ。
「こちらが塩の焼き鳥でございます」
アインがもも塩を出した。
「食っていいのか?」
「はい、三十本も買っていただけるというのでサービスです」
「そうか? 悪いな」
デレデレしながらももも塩を口に運ぶ。
「これもうめぇ! なんだよこりゃ。エールが飲みたくなる味だなあ、おい!」
ビールじゃないのか。ぼくはビールはどうも苦手で日本酒とかは割と嗜むんだけど、ビールは苦いのがどうにもならない。いや、日本のじゃないビールは苦くないのもあるって話だけど、そこまでしてビール飲みたくないしね。
「どうでしょう?」
「こりゃあ迷うなあ……両方欲しい。ん? そっちのはなんだ?」
どうやら鶏もも以外にも焼き鳥の種類がある事に気づいたらしい。
「鳥の皮、鳥の心臓、鳥の肝臓、尾羽肉、ネギを挟んだねぎま、胸肉、軟骨、つくね、手羽先とまあ様々です」
「どれも食ってみてえがさすがになあ。今日は鶏もものタレと塩を十五本ずつだ!」
「ありがとうございます」
さっと焼いて紙袋に塩とタレを分けて入れる。
「お待ちどうさまでした。またどうぞ」
「絶対に買いに来る。ありがとよ!」
男が去った後に女性が数人寄ってきた。
「へえ、なかなか美味そうだね」
「味は保証しますよ」
「肉だけってのはどうかと思うから、このねぎまとかいうのをくれないか? 各自一人ずつ」
「ありがとうございます。サービスですので一本目は無料でどうぞ」
「そりゃあ助かるね。塩とタレか……私はタレにしようかね」
他の二人は塩で頼んだ。ネギの香ばしい匂いがさっきの匂いにまじっている。
「こりゃすごいね。肉はジューシーだし、ネギはシャキシャキしてるし、タレの甘さはたまらない。いくらでも食べれそうだよ」
「この塩の方も美味いよ。ネギの味が際立つっていうか」
どうやらご婦人方にも好評の様だ。
「旦那にも食わしてやらないとね。二十本おくれ」
「うちは子どもが二人居るからね。四十本もらおうか」
「うちはそこまで……あ、そっちの違うのも食べてみたいわ」
婦人C(仮称)が指したのは心臓。
「なんなら買われて今食べてもらっても。不味ければお金はいりません」
「そうね。とりあえず一本ちょうだい」
タレが塩か聞かれなかったので個人的には心臓は塩だと思うのでアインに塩を出させた。
「どうぞお召し上がりください」
「お召し上がりだなんて……へぇ、食感が全然違うねえ。歯ごたえがものすごい。塩が効いてものすごく美味いよ!」
どうやらお気に召していただけた様でももと心臓を十本ずつ購入してもらった。
「ももじゃなくても美味いなんて、もしかしたらこれ、全部美味いのかねえ?」
「さて、そこは買っていただくしか。ですがどれも美味しいと思いますよ」
そこに現れた冒険者の人。おや、どこかで見たような……
「本当に店を出したんですねアインさん」
「おや、リックさんではありませんか」
そうだ、嵐の運び手のリックだ。街中で会うのは初めてだから誰だかわからなかった。アインは覚えてたみたいだな。
「オレたちが試食した時より種類多くねえですか?」
「ええ、色々ありますよ?」
「……分かりました。四人ですので二十本ほど。おいくらですか?」
「銀貨二枚ですね」
銅貨百枚で銀貨一枚とお考えください。
「マジかよ! やっすいな!」
「安くしないと買って貰えませんから」
「十倍でも売れるだろ! ロックバードだぞ?」
「家の周りに飛んでる鳥ですね」
「そうでした」
リックはガックリと肩を落とした。




