第四十二話:魔法と物理の同時攻撃
どっちかは効く!
「ほらほら、こっちですよ。鬼さんこちら」
「UHOOOOOOOOOOO」
ダークウォーリアーはアスカの挑発が効いたのか家の方に誘導されて向かって来た。兵士たちが逃げたからこっちに来てるのかもしれないけど。
アスカは時々魔法攻撃をしているが、どうやら魔法障壁があるらしく、効いた様には見えない。それでもこの戦車砲なら、と望みを託す。
「戦車砲準備シマス。砲弾発射マデ五秒デス」
それに向かって大砲の照準を合わせる。これ、なんかゲームみたいで面白いんだよなあ。
「よし、発射!」
はい、お察しの通り、同盟より帝国の方が好きです。あ、帝国と言ってもザスカーじゃないですけど。
高質量の砲弾がダークウォーリアーに命中してその身体が吹っ飛んで崩れ落ち……ない!?
「え、えええええええええええええ!?」
「あの攻撃が通じないなんて……」
ダークウォーリアーはよろめきながらも立ち上がってその大きな腕をぼくの部屋に向けて振り下ろしてきた。ガイン!という音が鳴ってその腕は弾かれたんだけど……ダークウォーリアーはお構い無しに腕を振り下ろす。
いや、これ、大丈夫か大丈夫じゃないかはともかくとして、怖くて仕方ない。だってゲーム画面と違って振動がこっちまで伝わってくるんだもん。
「URYYYYYYYYYYYYY!」
お前は吸血鬼か、とつっこむのもままならず、かと言ってもう一度戦車砲を撃つには砲塔から離れている。これはどうしたものか。
「うちから、ご主人様から離れろお!」
アリスがダークウォーリアーの足を掴んで持ち上げようとする。いや、ダメだって、そんなの持ち上がるわけ……
「手伝います姉様、《筋力倍加》!」
「は、な、れ、ろぉーーーーーーーーー!」
アスカの強化魔法らしきものが飛んでアリスの身体が赤く光ったかと思うと、そのまま持ち上げてダークウォーリアーを投げ飛ばした。うそぉ!?
「ハアハア、ご主人様、ご無事、ですか」
「アリス……ああ、お陰で助かった」
「それは、良かっ、た」
バタンとアリスが倒れる。おい、一体どうしたってんだよ?
「アリス、出力過剰ノ為、休眠モード二移行シマス」
パペットマスターのアナウンス音声が淡々と告げる。休眠モード?
「限界までパワーを使ったのでそれを修復するまでは動けなくなります。下手に動くと崩壊しますから」
「じゃあ早く回収しないと……」
「誰が?」
「誰がって……そうだ分身体だ!」
ぼくは分身体を動かすとアリスの回収に向かわせた。だがダークウォーリアーは耐性を立て直してこっちを睨みつけている。アリスのお陰で用心してるのかこっちの様子を伺っているようだ。
「ご主人様ご提案があります」
営業マンの口から出るこの言葉はいい提案だった事は無い、というのが営業をやって来たぼくの持論なのだが、アスカが言うなら違うのだろう。
「提案ってどんな事?」
「ダークウォーリアーが砲弾を防いだ時に、魔力による魔法障壁が物理障壁に切り替わるのを感じました。その時に魔法を打ち込めば」
「魔法障壁は展開出来ないかもしれない、か」
「勝負は賭けになりますが」
「だけどやらなきゃやられる。それなら少しでも可能性がある方がいい。頼めるかい?」
「勿論です、ご主人様」
ぼくは再び戦車砲に弾を込める。と言っても肉体労働は無くてモニター操作で出来るんだけどね。
アスカは大魔法を放つ為に詠唱に入った。しまった、ダークウォーリアーがアスカに気づいた。こっちに向かって来る!
「私の妹に触るなあ!」
その時、動かなくなっていたはずのアリスが立ち上がり、ダークウォーリアーにジャンプして殴りかかった。ゴツッと鈍い音がしてダークウォーリアーが片膝を着いた。
そしてアリスはそのまま崩れ落ちた。倒れたでは無い。足が、腕が、砕ける様に崩壊したのだ。
「アリス!」
「ご主人様、後はお願いします」
「パペットナンバー1、個体名:アリス、稼働停止を確認しました」
パペットマスターの無機質な声がアリスの稼働停止を告げる。なんてこった。アリス……
ダークウォーリアーは再び立ち上がりこっちに向かって来る。しかし、詠唱も、戦車砲も既に準備万端なんだよ!
「戦車砲、発射!」
着弾と同時にアスカの魔法が放たれる。
「全てを焼き尽くす熱量、滅びの風、疾く忍び寄る死の足音、煉獄の業火よりも熱く、氷獄の底より冷たく、悪魔よりも無慈悲に、融かし尽くせ! 核融合爆発」
いや、メルトダウンは爆発じゃないんだが。いや、この世界を作った神様に失礼か。この世界ではきっとそうなのだろう……ってか、それだと放射能がやばい事になりませんか?




