第四百話:明日から本気出す
ええ、終わり方的にはこれが無難かなと思います。誰とも結ばせる気はしないので。
「別に秘密でもなんでもないでしょう。皆さん知ってますし」
「いや、そうかもしれんが……」
「まあまあ、ともかく入ってくれ」
セイバートゥースに案内されて中に入った。
「事情は、分かり、ました。その、でも、それだと、ここで運動、しても、幸運の量、は、変わらないんじゃ、無いかな」
そうだった! 散歩は運動するのが目的じゃなくて、幸運の量を消費するのが目的だった!
「ちょうどいいからご主人様と一緒に出掛けて来たらどうだ?」
「ひぅっ、セイバートゥース、ちょっと、何を言ってるの!?」
「良いじゃねえか。運動自体はしてるが街とか行ってねえだろ?」
「無理無理無理無理!」
あー、無理だよね。ぼくみたいなのと一緒に行くのは歩美さんの為にもならない。孤児院の子たちと一緒に行けばいいと思うよ。
「まあ嫌なら無理強いはしねえけどよ。ご主人様も出掛けられる様にならないと、一国の代表なんだからダメだぜ」
「一国の代表だから逆に軽々しく出掛けちゃダメなんじゃ?」
セイバートゥースに目を逸らされた歩美さん。気持ちは分かる。ぼくだって理由つけて出掛けたくない。でも出掛けないと寿命がなあ。いや、そのまま若いまま生きるならそれもいいんだけど、老化がそのまま進行するなら普通に寿命を迎えたい。
ということでぼくはどこか他の場所に出掛けるか。ダンジョン内はノーカウントみたいだし。女神の威光が届きにくいんだと。
まずは帝都に行ってみる。大通りを歩こうとする。そうだ、別に誰もぼくのことを知らない。だから、歩くだけで特に声を掛けられることはない。そう、大丈夫だ、大丈夫。
「あ、オーナーじゃないですか」
声を掛けられた。トーマスだった。エレンとサラちゃんも居る。親子三人でお出掛けの様だ。
「あ、ああ、どうも」
「オーナー?」
「いや、まあ、仲良く」
そう言ってトーマスに何枚かの金貨を握らせた。
「えっ? オーナー、これは?」
「取っておけ」
そう言ってポカンとしてるトーマスや元気に手を振ってくれるサラちゃんを尻目に路地に曲がって入って家に戻った。
「まさか知り合いと会うなんて」
「知り合いってトーマスさん一家はご主人様の奴隷では?」
「いや、奴隷とかそんな風に思ったことないし。なんなら奴隷から解放してもいいと思うんだけど」
「今更ですね。さて、次は王都ですか?」
「そ、そうだ」
次は王都に行ってみた。帝都もアレだったが王都も王都でそこそこ知り合いがいる。出会わないように出会わないようにと思えば思うほど出会ってしまうのだ。
「あ、護さんだ」
出会ったのはリンさんだった。今日は一人らしい。
「ど、どうも、今日、トムさんは?」
「それがさあ、聞いてくれる?」
そしてリンさんにそのまま酒場に連れ込まれて愚痴のマシンガントークを聞かされた。あーとまらーなーいーあのひーとー、この思いわーたしま・し・ん・が・ん〜。
なんだかんだで同じような話がループしてきてループが八周目に突入した辺りでトムが顔を出した。
「何やってんだよ」
「うるしゃい、このうわきものぉー」
「なんだよ、浮気って。別に浮気なんてしてないだろ」
「新しい受付嬢にデレデレしてた、ギルティ!」
「いや待て、別にデレデレは」
「うるしゃいうるしゃいうるしゃーい!」
このままだと埒が明かないと思ったので、こっそりと金を払ってあの二人のために宿屋の部屋も一番いいのを頼んでそのまま帰った。お幸せに。夫婦喧嘩は犬も食わないんだよなあ。
「はあ、上手くいかないなあ」
「分身体なら普通に出掛けられるんですけどね」
「そりゃあまあ分身体ならなあ」
「なんなら分身体で出掛けて能力で入れ替えれば」
「……なんかコートの下に何も着てない露出狂みたいなやつだな」
「見られてはいけないけど見られたいみたいな二律背反な気持ちは共通するところがあるのでは?」
なんとも言えない。まさか露出狂呼ばわりされるとは思ってなかった。いやいや、見られたいとは思ってないからな!
「でも、ご主人様、どうするんですか?」
「主様、なんなら目撃者全部撲殺してくるよ?」
「チーフ、記憶の改竄に興味があるので被検体はいくらあっても困りませんので」
「ご主人様、誰も居ないところに跳ばすだけなら簡単」
おっ、そうか。下手に帝都とか王都とかでやるから知り合いに会ったりするんだ。いや、別にその知り合いには慣れた方がいいんだろうけど。ともかく、出掛けない事には話にならない。
「よし、どこか他のよく分からないところ……そうだな桜国とか面白そうだ」
「直ぐに行けますよ」
どうやらある程度時間がかかると思っていた桜国へ行くのも直ぐに出来そうだ。
「まあ、焦らなくていいよ。そうだな、今日は疲れたから明日から本気出す!」
一年ちょっとですが、お付き合いいただきありがとうございます。一応次回作も考えていますのでそちらも応援いただけたらと思います。




