第四十話:騎士団長、出るぞ!
私らの年代で「バスタード」って言われるとどうしてもあの漫画が浮かぶんですよね。
「すまない、アリス殿。我々が不覚を取ってしまい」
「抵抗したんですけど数には勝てなくて」
「不甲斐ない」
嵐の運び手の皆さんは口々に詫びの言葉を言っています。まあ侯爵サマを送って欲しいって言ったのはぼくだからね。そりゃこういうのなら捕まるでしょ。
「ははは、どうだ? 貴様らの仲間なんだろう? 仲間を助けたくは無いのか?」
「いえ、別に」
アリスはあっさりと答えた。
「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」
全員の気持ちが一つになった気がした。ぼくたち以外はだけど。
「こ、こいつらはお前の仲間では無いのか?」
「食事をたかりに来る冒険者と聞いています」
「えっ? オレたちの評価ってそんな感じ?」
「いや、間違ってねえけどさあ」
身も蓋もないけど、昼ご飯時に来てご飯食べていくだけだもんね。なんか有益な情報でももたらしてくれるなら……あ、いや、でも何回か予告とかしてくれたかな?
「ご主人様と天秤にかける程の価値もありません」
「ぐ、ぐぬぬ」
「なんか、凹むな」
「そうね、その通りだけど実際に聞くと凹むわね」
なんか空気がお通夜みたいになってるけど。アリスがつかつか歩いて侯爵サマの所に歩み寄った。そして、「人質が、人質が!」とか騒いでる侯爵サマを「そぉい!」と掛け声を上げて家の方に放り投げた。
放り投げられた侯爵をいつの間にか出ていたアスカが受け止める。と、同時に魔法で拘束していた。お見事。
そして檻に嵐の運び手を残したまま、アリスはアリスが家に戻ってこようとする。
「おいおいおいおい! アリス殿、ここから出してもらえませんか?」
「面倒なんですが」
「ほら、お礼とか何でもしますから!」
「別にどうでもいいですし」
こりゃダメかな。仕方ない。一応仕事頼んだのぼくだしね。ちょっと罪悪感もある。
「ぼくからも頼むよ、アリス。助け出してあげて」
「ご主人様がそう仰るなら喜んで!」
アリスはそのまま檻に近付いて、両手で掴むと、腕を外側に開くように拡げた。それに伴って檻が鉄製なのに飴細工みたいにねじ曲げられ、外に出られるようになった。
「どうぞ」
「あ、はい」
そのまま檻から出る嵐の運び手の四人。まあ武器とかは全部取り上げられてるみたいですが。
「な、何をしている、そいつらをやれ!」
「いや、でも人質として役に立ちませんし」
「それでもだ!」
どうやら何をしていいのか分からなくなってるんだろう。周りの騎士たちが嵐の運び手に一斉に斬りかかった。
アリスはすぐ側の森にあった木を一本根元から引っこ抜いて、それを武器の様に振り回した。いや待って? 普通引っこ抜けないよね?
「なんだと!? うわあああああああああ!」
木に弾き飛ばされて騎士たちが地面に這いつくばる。後続の騎士たちも躊躇している様だ。
そこに後ろから一際荘厳な馬車が乗り込んで来た。
「あの馬車は第二王子の馬車!」
知っているのか、リック! じゃなくて、なるほど。やはり助け出して正解だったか。ぼくらにはこの王国の知識とかないもんね。今のところ王国で好意的な人物なんて居ないし。あ、近くの領主様? いや、それも好意的とは思わない。
「終わったかと思って来てみれば、何たるざまだ! もういい、騎士団長、貴様が相手してやれ!」
「やれやれ、私の出番ですか? 仕方ないですね」
馬車から出てきたのは白銀の鎧を着た偉丈夫。手にはバスタードソードを持っている。バスタードって雑種とかそんな意味だからハンド・アンド・ハーフソードって言うのが正規呼称らしいけど。
ともかくこのバスタードソードってのは通常の剣とは重心の位置が異なる。その為独自の訓練を必要とし、片手で扱うには長く、両手で扱うには短い、という中途半端さで便利さ以上に扱いにくく普及しなかったもの。それを使いこなすというのはかなりの技量というものだ。
……騎士団長が持ってるからきっと使いこなせるんだよね?
「私はゴンドール王国騎士団団長、ザインボルフ・V・ラングフラット。王国の剣たる私が相手をしよう」
迫力はある。そして実力もあるのだろう。さっきあれだけやられていた騎士たちが団長の登場によって息を吹き返したかのように盛り上がったからだ。
「団長、団長、団長、団長!」
「団長サイキョー、王国サイキョー!」
「団長の、チョットイイトコ見てみたい!」
最後のはイッキの掛け声じゃないかな? そういや新歓とか新入社員歓迎会とかでさせられたなあ。だからあまりお酒とか好きじゃないんだけど。
「貴様も名を名乗れ!」
「アリス。ご主人様の正妻」
正妻にしてないよね? いや、こっちに向いてそんな悲しそうな顔されても……うん、これは早急にボディの作り替えが必要ですなあ。




