第三百九十九話:護、思い立つ
思い立ったそばから挫けそうですが。
「それで、あと何年くらいなんだ?」
「このままのペースだと二千年くらいですかね」
「なんでそんなに……」
「それは、護さんが外に出ないからですね」
ん? どういう事だ?
「つまりですね、外に出ていれば、それなりに幸運な事が起こって幸運の量が消費されるんですよ」
「今までも外に出ていたが?」
「分身体はノーカウントです」
なんと面倒くさい。という事は出掛けなければ寿命は減らないのか? うーん、それはそれでいいことだと思うんだが。
「あ、老化はしますので恐らく人生の大半が寝たきり老人みたいになるかと思います。まあ今の生活でも対して変わらないから良いですよね?」
「良いわけあるか!」
例えアンヌが居るとはいえ、病気とかじゃなくて足腰が弱ったらきっと骨を強くするためになにか埋め込もうとするだろうな。アンヌならやる。まあ今からだいぶあとの事になるだろうが。
「で、出掛けたら幸運の量は消費されるのか?」
「ええ、そうですね。日常的に出掛けてたら自然に消費されますからきっと減ると思います」
ぐっ、これはどうあってもぼく本体が出掛けなきゃいけないパターン。いや、そうだ。森の中、森の中ならきっと大丈夫。人に会わずに散歩するとかでも大丈夫なんじゃないかな?
「よし、こうなったら森の中を散歩しよう。やっぱりアリスかな」
「主様、呼びました?」
「散歩するから護衛を」
「デートですね!」
「いや、だから森の中を散歩しにな」
「静かな森の中で主様と二人きり……」
いや、見えないところで護衛付けるけどな。アカネと研修みたいな形でアラヤもか。
「そういう訳だから頼むな」
「御意」
「社長命令とあれば」
「なんで二人共ついてくるの!?」
何でも何もアリスだけだとアリスが魔獣倒してる時にぼくが無防備じゃないか。
「よし、じゃあ出発」
「ご主人様、どちらへ?」
アインに声を掛けられた。ご飯は食べたばかりだから別に時間的なものが問題な訳じゃないと思うんだが。
「ちょっと森に散歩に」
「えっ、正気ですか?」
「なんだよ、正気って、食後の散歩ってやつだよ」
「今までやった事なんてないじゃありませんか。でも悪い事ではありませんが。今は遠慮した方が良いのでは?」
なんか遠回しにやめろって言ってない? いや健康の為にも散歩は悪くないはずだ。
「まあなんでそんなことを言うのかは分からないけど決めた事はやりたいんだ」
「そうですか。もう止めません」
はぁ、とため息を吐かれた。なんだろう、なんでこんな反応なんだ? ぼくは出掛けようとスウェット姿に着替えて、ドアを開けて
「あ、あれはもしかして使徒様!?」
「お顔をだされたぞ!」
「ありがたや、ありがたや」
「サインとか貰えるかな?」
バタン、と閉めた。えっえっえっ? 何これ? ドアの前になんか人が集まってるんだけど?
「ご主人様、お早いお戻りですね」
「おっ、おい、なんだ、あの人たちは!」
「ええ、巡礼者、だそうです」
「巡礼者!?」
「はい、こちらが聖域に指定されましたので真摯な真教の信者の方々が巡礼をしているんだそうで」
あのさ、普通聖域って言ったら人が来ないような場所にならない?
「いえ、アヤさんや嵐の運び手の人たちは来てますから特に問題ないかと」
そうだった! と、いうことはここに来ること自体は何とも思われてない?
「今はこの程度ですけど、恐らく遠方からの人が続々と集まって来ますので、これからもどんどん増えていくと思われます」
……ええと、つまり、森の中は散歩出来ない?
「散歩なら出来ると思いますよ。帝国と王国の方から道が繋がっていてそこだけ避ければ散歩は出来るかと」
「まずドアを開けないといけないよな?」
「はい、ドアの前に居る人には手でも振ってあげればよろしいのでは?」
で、き、る、か! くそう、こうなったら今日は散歩はなしだ。とりあえず散歩するところをどこか探さねば。よし、森がダメならどこか……街? それもどうかと。そもそも人の前に出たくない。
「ご主人様、差し出がましい様ですが」
「なんだ?」
「歩美様のところに行くのはどうでしょう?」
歩美さんのところ? そうか、歩美さんのところなら運動もできるな。よし、行ってみるか。
「いらっしゃいませ、お嬢さ……なんだ、護か」
出迎えてくれたのはセイバートゥースだった。その笑顔は嘘くさいからやめた方がいいぞ?
「ご主人様に用事か? 今忙しいから多分無理だと思うが」
「あ、いや、うう運動させて、もらもらもらえないかな、と」
「よく見るとお前、本体の方か。珍しいな。だがいいのか? 他の客が沢山いるぞ? 苦手なんだろう?」
「ぅぅぅぅ、なんで、知って」
「アインに聞いているからな」
アイン! そんなご主人様の秘密をペラペラ喋ったのか?




