第三十九話:侯爵サマ再び!
ムスカみたいな追い詰め方しようと思いましたがやめました(笑)
「おいこら、開けろ!」
侯爵は前にも倍した騎士たちを連れて戻って来た。人数が多くなると気が大きくなるのってあるよね?
「第二王子殿下からのお言葉を賜った。謹んで拝命せよ!」
いや、別にぼくはそっちの国の国民でもないんだし、お言葉とやらに何の意味があるのか。
「ここに住む住人は直ちに退去し、この家は第二王子殿下の別荘として使っていただける事となった! 女たちは第二王子殿下の身の回りの世話をする為に置いて行くがいい!」
えーと、パペット全員置いてこの家から出ていけって事? いや、有り得んでしょ。どんだけ自分勝手なのよ。
「私たちに全員あいつの慰みものになれっていうこと!? もう我慢出来ない。ご主人様と離されるなんて耐えられません私、文句言ってきます!」
アリスが憤慨して外に出た。止める暇もなく、である。相手は騎士たちだし、アスカみたいに魔法が使える訳でもないし、一人で大丈夫かなあ?
「ちょっとあんたたち!」
「うおっ!?」
「なんだあれ!?」
「筋肉!?」
アリスが出て行くと侯爵サマが目に見えてビクッとなった。あー、まあ、縄から解放してくれた人だもんね。
「私にご主人様を捨てて第二王子とやらに仕えろだなんて私とご主人様の仲を引き裂こうっていうの!?」
「は? い、いや、女たちだからお前は入っとらんぞ?」
「はあ? 女たちなら私も入ってるじゃない!」
「は?」
「え?」
……うん、完全に男と間違えられてんだな。まあ単なるマッチョにしか見えんもんなあ。ボン(肩)キュッ(腰)ボン(太もも)の見事な逆三角形とそれを支える強靭な下半身だもんね。
「貴様の様な女が居るか!」
「なんて酷いこと言うの! 私のハートはブロークンなんだから!」
なんでわざわざ英語まぜてんだよ。その芸はどこで覚えた?
「……てへ♡」
「貴様か、フォルテ!」
「あ、いや、その、つい出来心で。ご主人様に愛してもらうにはどうしたらって相談されたから」
「ならなんでけったいな感じにしたんだよ!」
「その方が面白そうだから?」
「後で覚えてろよ!」
フォルテにお仕置したいところだが今はアリスが心配だ。いや、別にアリスが嫌って言うんじゃないぞ? ぼくとしては最初に作ったパペットだし、信頼してる。でも、マッチョがなあ。
「私とご主人様の愛、引き裂けるもんなら引き裂いてみなさい!」
そう言うとアリスは騎士たちの中に踊り入った。手近に居た騎士をリフトアップすると、そのまま別の騎士に投げ付けた。
「ひっ」
「うわっ」
「お、おい!」
「なんだこいつ……」
正面の騎士たちがジリジリと下がっていく。侯爵はこれはいかんと指示を飛ばした。
「何をぼーっとしておる! 相手は一人なんだぞ? 囲め、囲んで袋叩きにしろ!」
「はっ!」
侯爵サマの号令一下、騎士たちが迅速に行動に移す。確かにこいつらはエリート部隊なのかもしれない。あっという間にアリスが囲まれた。
「アリス! くそっ」
「ご主人様、アリスお姉様なら大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだ? 武器を持った敵に囲まれているんだぞ?」
「あの程度なら全く問題ありません」
アスカが動じないでゆっくりお茶を飲んでいる。アインもそんなに心配してないみたい。アスカにお茶を入れてやってお茶菓子まで出してやるくらいだからな。本日のお茶菓子は郷土の銘菓、利休まんじゅう。一口サイズの食べやすいお菓子です。
「かかれ!」
侯爵サマが合図を出すと、周りの騎士たちが一斉に斬りかかって来ます。アリスは左足を軸に右足で蹴りをコマの様に放ちます。回りながらも蹴りは正確に騎士一人一人を射抜いていたようで、一番前の騎士が全員飛ばされ、それに巻き込まれる形で後続の騎士が転倒していきます。
「なんだと!?」
驚いている侯爵サマの所までアリスがダッシュをしました。間にはまだ兵が何名か居るんですが、それを軽々と飛び越えて行きます。
すたんと侯爵サマの目の前に降りて、「ごきげんよう」とニッコリ微笑むと、そのほっぺに平手打ちをかまします。
「ボゲェ!?」
侯爵サマは顔を歪めながら横に吹っ飛んでいきました。顔が歪んだのは怒りでとか苦悶でとかではなくて物理的な力です。
周りの騎士たちが呆然としています。何が起こってるのか理解出来てないようです。アリスはズンズンと歩いて侯爵サマのところに歩み寄り、そして聞きました。
「まだやるかい?」
どこの極道ですかね?
「ひ、ひいいいいいい」
悲鳴をあげながら侯爵サマが這いずって逃げていきます。それを追うことも無く見ているアリス。そして侯爵サマが後方の自陣に囲んだと思った時にまたアリスが進み始めました。
「待て、うっ、動くな! こいつらがどうなっても良いのか!」
侯爵サマが指を鳴らすと檻に入れられた嵐の運び手の皆さんの姿が。なるほど、人質ですか。




