第三百八十八話:ドキドキ神降臨
重桜華でもちゃんとフォルトゥーナの名前で信仰されています。
フォルテが妙にやる気になってる。そしてフォルテは自信満々にえいっと両手を掲げると、光の柱が降り注いで……とはならなかった。へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「えっ? あれ? 本体? 見てない? なんで?」
女神様は忙しいんだよ、きっと。何をしてるのかはそっとしておきましょう。きっと、きっと、ぼくらの世界のために頑張ってくれてるはずだから!
「なんだそのポーズは?」
「ふざけるのも大概にしろ!」
「何が女神だ。降臨できるものなら降臨させてみろ!」
「よりによって使徒様を騙るなど」
「とんだペテンだ。信じられん」
ああ、参加各国からの罵詈雑言がぼくらに向かって降り注がれてくる。いや、本当にぼくが使徒だって言ったわけじゃないのに! 帰りたい、帰りたいよ。
『護さん、護さん。私は今あなたの心に直接話しかけています』
(そうみたいですね、フォルトゥーナさん)
『なんか冷たくありません?! それよりもなんかフォルテからの降臨申請が来てるんですが、なんですか、これ?』
(あの、この間のボニファティウス教皇が、フォルトゥーナさんを呼んで欲しいって要請して、フォルテがやる気になったんですよ)
『そもそもなんで護さんが外に出てるんですか? 出たくなかったんじゃ?』
(そりゃあまあぼくだって出たくなかったけど、出ざるを得ない状況にされたんですよ)
ボニファティウス教皇が来なければ別に本体で来なくても良かったのだ。その場合別に吃ることもなく、弁明出来たから降臨を要求される事もなかったと思う、多分。
(それでフォルトゥーナさんは何やってたんですか?)
『私だって色々やることがあったのよ』
(例えば?)
『ええと、ええと、その、ほら、毒が入ってるかどうかがわかった辺りで』
どうやら宮中の事件を解決する調合師みたいな侍女の話を見てたらしい。うんうん。一気見って楽しいよね。だが仕事しろ。
(それで降臨するんですか?)
『ええ、別にいいわよ。でも降りても言うこと無くない?』
(一応なんかぼくが使徒かどうか疑われてるみたいなんで)
『ええ? それは困るなあ。護さんには長生きしてもらって使徒としてやる事が』
(使徒として仕事があるんですか?)
『え? ないよ』
ないの?! いや、別にやる事求めていた気もしないので構わないんだけど。
『ほとぼりが冷めるまでこっちに来ないで……あ、いや、この度の生では長生きして天寿を全うして欲しいと思ってまして』
さりげなく本音が聞けた。ぼくの寿命になる予定の時期まではこっちの世界で頑張れということらしい。まあいいけど。
『あ、そうだ。魔王とか倒してきてもらうとかどう?』
(魔王っているんですか?)
『いる訳ないじゃない。なんなら護さんが魔王になればいいんじゃないの?』
(人を魔王にするんじゃない、この女神!)
『で、降臨するのは良いんだけど、どうする?』
(ぼくはどっちでもいいんですけど、降臨すれば現世での信仰を取り戻せるのでは?)
『何やってるの! 早く、早く降りるわよ!』
どうやら信仰を取り戻すのは大事なことらしい。まあ信者の力が女神の力になるんだから当然か。
『フォルトゥーナ、フェードイン!』
フェードインはやめなさい。確かに神秘の力がたちまち溢れてますが。おおっと、フォルテの身体がピカッと光ってそこにはフォルトゥーナさんの姿が……また盛ってるんだ。
「この世界のものたちよ、私がこの世界の女神フォルトゥーナです」
眩い後光をきらびかせ、フォルトゥーナさんはみんなに話し掛けた。誰も誰もが言葉を失って呆然としている。その中でボニファティウス教皇が涙を流しながらひれ伏す。
「おお! また降臨していただけるとは、このボニファティウス、歓喜の極み! なんと神々しく、なんとお美しい!」
「ボニファティウスでしたね。日々の精勤、見ていますよ」
「おお! ありがたきお言葉!」
嘘だよね? さっきまでこれ、毒ですって観てたんだよね?
「こ、これが女神……本当に存在したというのか?」
「あなたは重桜華の初代に似ていますね。やんちゃな子でしたが」
「! しょ、初代陛下をご存知なのか?」
「ご存知も何も。あの子が国を起こすのを見守っていましたからね」
「それは、なんという、いや、光栄である。朕、いや、私は女神様にお会い出来て光栄です」
華国の皇子が跪いた! なんだろう、退かぬ、媚びぬ、省みぬ!じゃないのか。
「護さん、いえ、使徒護様、これまでの無礼をお許しください」
「使徒様でしたのね。護様、妻として恥ずかしくない様に振る舞います。よろしくお願いしますわ!」
ラケシス様がアーニャさんが深深と頭を下げていらっしゃる。あれ? アーニャさんはともかく、ラケシス様ってぼくが使徒だって知らなかったっけ?




