第三十八話:依頼内容、王都までの護送
渡りに船
貴族の言う事には名前はオーギュスト・V・ビエイラという侯爵サマなんだと。そういやこないだの領主の息子もビエイラが何とかとか言ってたなあ。というか侯爵ってボスじゃないの?
「ワシはある方の命をうけてここに使者として来たのだ。その使者に何たる振る舞い!」
使者には間違いないだろうけど、なんでこいつはこんなに偉そうなの?
「ご主人様、こいつバラして煮込んでいいですか?」
「ダメだよ、ご飯作れなくなっちゃう」
アインの過激派発言はたしなめておく。たしなめられたかは分からないけど。
「あなたほどの人が使者とは余程偉い方なんでしょうね」
ぼくの分身体でお相手してます。他の娘に任せると不安しか残らんもん。
「当たり前だ! 第二王子は貴様らにはお目見えも許されんお方だ!」
「いえ、別に会いたくもないんですけど」
「なんだと!? 第二王子に会うために何ヶ月も待つものもいるというのに!」
アイドルか何かかな? というか会って欲しいのか会って欲しくないのかどっちだよ? いや、会ってくださいって懇願されるのを突っぱねるのが良いのかも。しかしマヌケは見つかった様だな。
「てことは第二王子があなたに? 無能だなあ。そんな人が第二王子とはこの国の未来もくらいねえ」
「何を言うか! 第二王子が王太子に立太子されればこの国はより強くなる!」
「クーデターでも狙ってんの?」
「勘違いするな。正統な国の後継者は第二王子だ! 第一王子なぞ、先に生まれただけに過ぎん! 血統的にもこちらの方が上なのだ!」
なんかこのままほっといたら第二王子は王位につけないらしい。当たり前だけど。第一王子の母親は元メイドさんなんだそうだ。ちなみに今は亡くなっている。しかしこんなに王位が欲しいものかね?
「如何なさいますか?」
「アイン、一応聞くけど如何とは何が?」
「第二王子です。ちょっと行って滅ぼして来ましょうか?」
いや、出来んだろ? それに無闇に敵を作りたくない。いや、向こうの方でやる気満々なのは何とかして欲しいところだ。
「ええ、ビエイラ侯爵、このまま第二王子を説得してここに近づかないと約束してくれるなら無傷で解放しましょう」
「本当か!? よし、ならば直ぐにこれを解け!」
「解け、ですか?」
アインの目がすうっと細まる。
「あ、いや、解いてくれ」
「アリス、縄を解いておあげ」
「わかりましたご主人様」
アリスは縄につかつか歩み寄ると「ふんぬ!」とばかりに縄をブチッ。
「解きました」
「う、うム」
「それでは王国に無事辿り着ける事を祈っております」
「な、なんだと!? 馬車も護衛も無しに帰れというのか!」
侯爵は激昂した。めんどくさいなあ、もう。でもアリスだけでもアスカをつけても王都にはやりたくない。
「こんにちは、随分と派手にやったもんですなあ」
「今頃来て何の用ですか?」
「いや、オレたちは狩りの途中の小休止に……で、この貴族は?」
「侯爵ですって」
「こ、侯爵閣下!?」
あ、やっぱり尊称付けるんだ。まあこっちにつくって言ってもやはり自国は捨てられないよね。
「おお、お主らはワシを知っておるか」
「はい、一応王国で活動しておりますので」
「な、ならばお主ら、ワシを王都まで護衛せよ!」
「ええっ、困ったなあ(チラリ)」
リックさんがぼくの分身体の方をチラ見していた。ため息吐きたい。
「ぼくからもお願い出来ますか? 家から離れられないので。勿論タダとは言いませんよ」
「その言葉を待ってたんだ」
出せるものなんてそんなに無いぞ? アインの料理とアリスとアスカが狩った魔獣の素材、そしてその素材で作ったアミタの武器防具くらいだ。
「アインさんの料理! それってお弁当でってことですか? やっほう!」
「あの、この素材って特Aランク魔獣スタンピードマンモスの牙と毛皮なんですけど」
「えっ!? 何この短剣、岩鱗竜の外皮が簡単に裂けるって!?」
岩鱗竜は竜と付いてるがトカゲの仲間みたいなやつだった。デカいヤモリみたいな?
「引き受けさせていただきます!」
嵐の運び手のみんなは異口同音に引き受けてくれることを約束した。あー、良かった。
馬車が無い、とかで散々文句言ってたのでなんかないかと思ってネットスーパー探っていたらアウトドア用のキャリーワゴンがあったのでそれを貸し出した。壊れてもいいから持って帰ってね、と言っといたけど戻ってくるかなあ?
そしていつもの様に昼ご飯を食べたあと、嵐の運び手に連れられて侯爵サマが帰って行った。ふうやれやれ。ここから王都までだいたい一週間くらいらしい。王都まで行くなら嵐の運び手のみんなも暫くは来ないだろう。
などと思っていた時もありました。侯爵サマが威勢よく戻って来たのはそれから三日後の事でした。




