第三百六十話:皇子の思惑
皇子も色々あるのですよ。
状況的には戦闘要員はアヤさんだけ。いや、向こうのメイドさんが戦えるかもしれない。こっちはアインは銃があれば戦える、アンヌは一体か二体くらいなら何とかなる、といったところだろうか? ぼく? ぼくは役に立たないよ?
馬車の周りを囲んでいた狼が吠え声を合図に一斉にかかってくる。アヤさんが外に出て迎え撃つ。一人で三体相手にしてる。これはすごい、んだろうか? いや、アンヌでも二体だから多分すごいんだろう。アインに銃は渡してない。だって皇子が居るからね。メイトのラージャさんは投げナイフを使って戦ってる様だ。時を止めたりしないよね?
リオンは平然としている。相手出来なくてこちらを攻撃してこようとする狼もいるのに動じて居ない。予想でもしていたのか?
「ふん、ちょっと脅しつけたらすぐこれか。わかりやすい奴らだ」
リオンが唾棄するかのように言う。えっ、こいつらの素性知ってんの?
「どういう事だ?」
「察する事も出来んのか。脳みそはついているのか?」
「こいつら山賊じゃないのか?」
「ここまで統率の取れた狼部隊を持ってる山賊などあるか」
「じゃあこいつらは」
「山岳国の奴らに決まっているだろう」
平然と言い放った。襲撃があると分かっていたのか、それとも襲撃されて当然な事をやったのか。
「娘を二人とも奴隷として差し出せ、と言ったらこの通りだ。堪え性のない」
「なっ!?」
さすがに一国の姫を奴隷にするのはどうかと思うんだが。が、リオンは更に信じられない事を言った。
「まあ夜伽にやつの妻を差し出させただけではダメだったからな。仕方ないから抱くには抱いたがあれはあまり良くないな」
こいつは何を言ってるのだろう。向こうでなにをやったのか分かってるのか? 下手すれば戦争……いや、もう戦争と同じ状態じゃないか、何のために? もしかして戦争の口実作りか?
「山岳国とて無いよりはマシなのだし、早めに併合しておいた方が後腐れなくて済むからな。後々感謝するだろうぜ」
そう言うとリオンは剣を抜いた。そして、切っ先をぼくに向けて来る。ぼくのそばにはアインが居る。勿論銃は持っていない。
「お前のような低俗なやつと同じ馬車に乗るなど真っ平だ。だから山岳国に襲われて死んだ事にしておいてやる。そして命からがら逃げ延びたオレは復讐を誓うって訳だ。どうだ、名誉な役どころをくれてやったぞ。有難く思え!」
そしてリオンが剣で突いてきた。ぼくしってるよ、レイピアは貴族の決闘用に使われてたって! いや、あれがレイピアかどうかは分からないけど、あからさまに突く武器だというのはわかる。
「死ねっ!」
「うひいっ!」
突いてくるのを間一髪、転がって避けた。だが、馬車の中だ。空間には限りがある。
「ちょこまかと逃げやがって」
「やめてください」
「知るかよ、オレに命令するんじゃねえ!」
「お手伝いしましょうか、リオン様?」
いつの間にか、入り口のドアからラージャが殺意とともにコンニチハしていた。
「ラージャ、そいつを抑えつけろ」
「かしこまりました。護様、お身体失礼します」
ラージャが身体全体で抱き着いてきた。これは、両腕を封じて逃げられなくして、そこをレイピアで刺すのだろう。これはあー、死んだかな? 出来たら痛くないのがいいなあ。
切っ先が迫る。ぼくは動けない。異世界行ったけど明日から本気出す、連載終了です。それなりな間ありがとうございました。次の瞬間、キンッと音がしてレイピアが折れていた。
「私の主様になんで抱き着いてんだ! 早く退きなさい!」
アリスがドアのところからぼくを引き剥がし、ラージャは馬車の中に倒れ込んだ。
「主様、私というものがありながら、浮気ですか? そんなにメイドがいいんですか? ならアインちゃんにでも膝枕してもらいますか?」
「姉様、それは謹んで姉様にお譲りします」
アインが冷静にぼくの方に歩み寄ってくる。いや、ぼくの身柄を取り合いしてるんじゃなくて!
「貴様……このオレに、帝国の皇子たるこのリオンに逆らうというのか?」
「別にあんたに従う義理はない」
「全く面倒なやつだ。こうなったら騎士団どもが戻ってきたら殺してやろう。さすがに大勢の騎士共には勝てないだろうからな」
そんなリオンにアリスが現実を突き付ける。
「騎士たち? そういえば攻撃してきたから全部倒しておいたよ。お陰で主様のところに来るのがおくれたんだけど」
「なっ!?」
まあ帝国軍ぐらいの騎士ならアリス一人で十分なんだよなあ。なんせ前科もあるし。
「おい、アヤ! こっちに来い!」
「なんですか?」
「こいつらを殺せ、命令だ!」
「はあ、嫌に決まってるでしょう。調子に乗らないでください」
アヤさんに命令されたが断られた様だ。まあアヤさんだから多分敵対しないとは思ってたんだけど。敵に回るなら多分アリスは容赦しないとおもう。




