第三十六話:バカどもがクソ派手馬車でやってくる
畑は今ではだいぶ広くなって当たる範囲が拡がりました。
アスカとアミタとの顔合わせも兼ねてみんなで食事会となった。まあアヤさんはずっと食べ続けてるし、ぼくは部屋から出ないんだけど。
「初めましてアスカと言います。お姉様方やご主人様がお世話になっております」
「あ、いえ、お世話になってんのはオレたちなんで」
と言いつつも低身長故に銀髪に注目が集まってる様に見えるけど、きっと男どもは巨乳に注目してるんだろう。女性陣は銀髪だろう。
「基本の四属性はだいたい使えます。よろしくお願いします」
「それはすごいが……オレたちは何をよろしくされるんだろうか?」
「流れ弾、でしょうか?」
この世界の魔法には自動追尾なんて機能は付いてないので、魔法は射出したり投擲したりする。だからノーコンだと味方に当たることもある。別にアスカはノーコンでは無いけど事故ってのはあるから。
「い、いや、オレたちは王国とここだったらここに味方するから!」
「そうそう、王国も出身地ではあるけど、上層部とかは私たちには関係ないから!」
嵐の運び手の皆さんは故郷を捨ててでもぼくらに敵対したくないみたいた。そりゃそうか。この家の防衛戦力を甘く見てないんだよね。
「王国が侵攻してくるんですか?」
オムライスを大盛りで三杯食べて口の周りをケチャップで汚したアヤさんがシリアス顔で嵐の運び手の皆さんに聞いた。締まらないなあ。
「え、ええ、それは分からないんですが、その可能性もあるかと」
「でしたら帝国も動かないといけませんね」
ここで帝国に動かれると王国とは完全に敵対してしまう。王国は穏健派の方が優勢って感じらしいし、一部の跳ねっ返りだけを見て敵対するのは得策じゃない。
「帝国に報告してもいいですが、軍隊連れて来たらもうアヤさんにご飯出しませんから」
「私は何も見ませんでした!」
見事なテノヒラクルー。ぼくでなきゃ見逃しちゃうね。
「しかし、どうされるおつもりですか?」
「こればっかりは相手の出方次第だと思います」
などという話をした一週間後、キンキラキンに豪華な馬車が王国方面から来た。馬車の周りには騎士が何人も詰めている。
馬車はぼくの家の敷地の辺りまで来ると、そこで馬車の扉を開けた。中から気難しそうなオッサンがなんか恭しく書状を持っている。
彼は家の前まで来ると高らかに言い放った。
「この地に住まわれる王国民よ! そなたにこの土地を与える。それゆえ土地の責任者として税金と責務としての軍役を求める。引き受けるな?」
こいつは何を言ってるんだろう? それとも領主の息子の事があまり伝わってなくて自分たちが偉いと思ってる?
「外の方々、私はこの家の留守居役、アインと申します。今の話についてはご主人様が帰るまでの保留とさせていただきます」
「必要ない! 逆らうなら力尽くにでもてやる!」
まあ怖い。どうやらこいつらが好戦派らしい。平和主義者は平和主義者クラッシュなんて放ったりしないのだ。
「速やかにおかえりいただけない場合には実力をもって排除致します」
「ワシらに向かって……貴族に対して単なる平民の分際で弁えんか!」
「ですからご主人様はあなたの国の国民ではありません」
アインの言葉に気難しそうなオッサンは顔を真っ赤にして怒鳴り出した。
「礼儀も知らんか! ワシは貴族、それも侯爵であるぞ!」
侯爵はだいぶ高かったはず。公爵の次くらいかな? 江戸時代でいうところの外様大名くらいって聞いた事ある。読みはどっちも「こうしゃく」なんだよね。小癪な。
しかし、侯爵とは。王国のある程度高い地位に着いてるんだろうな。
「ワシの魔法兵団は王国最強! こんな家なんぞ一溜りもないわ!」
侯爵の後ろで魔法を撃とうとする気配がある。これはあれだな。ちょいヤバいかも? いや、家がじゃなくて外の畑がね。あー、あー、アスカ。ちょっと転移で戻って来て。
「お呼びですか、ご主人様?」
「良かった。アリスはまだ狩猟中?」
「はい、小休止をしておりました」
「そっか。ちょっと畑を守りたいんだけど」
「お任せください。《障壁》」
アスカが呪文を唱えると、畑に薄い膜がかかった。詠唱は無くて呪文名自体が強さを持ってるような響きだった。
「火炎球、放て!」
何発もの炎の弾がぼくの家に降り注いだのは次の瞬間だった。いや、ぼくの家は無傷だよ? ほら、帝国の時もそうだったし。でも今回は野菜畑の方にも流れ弾が飛んだんだよね。予想通りだ。
「なにぃ!?」
畑に着弾しようとしていた何発もの火炎球はバリアに弾かれて霧散した。さすがアスカだ、なんともないぜ!
「ではご主人様、行ってきます」
は? アスカどこ行くの? おーい?




