第三百五十三話:騎士団長再び
前の騎士団長さんのザインボルフさんは第二王子の件で処分されました。
「ふうん、事情はわかったわ。で、その子たちを引き取りたいのね」
「はい、お願い、できま、せんか?」
「ダメね」
まさかの即答だった。
「まず、証拠がないわ。確かにそこの孤児院で後暗い事はやってたんでしょうよ。でも怪我とかは治したって言うし、建物も外見は綺麗なんでしょう? どう考えてもイチャモンつけてる嫌がらせとしか思われないわ」
「で、でも、治療、しない、と、子どもたち、が!」
「そんな事分かってるわ。でも王国としては何も出来ない。むしろそこの貴族の味方をする事になっちゃうからね」
「えっ、なんで?」
「だって嫌がらせで実害が出てるのよ。そりゃあ取り締まるに決まってるでしょう」
王国は王様の権力もあるが、貴族の力も強い。下手をすると潰されてしまうのだ。
「そんな、どうしたら」
「手がない事は無いけど」
「どうやるんですか?!」
「子どもを王国に預けるの」
預ける? 子どもってそんな風に預けたり出来るの? いや、託児所やろうとしてるぼくが言うことでは無いかもしれないけど。
「それは、どういう、事です、か?」
「子どもたちが自分から保護を求めて王国に申し出た、という事にすればいいのよ。それなら王国から調査が出来る」
「え? でも孤児院の持ち主が貴族だから孤児院の子どもたちは貴族のものじゃ?」
「さすがにそこまで後進国じゃないわよ、うちの国は。奴隷だって扶養義務付けてるぐらいだもの」
どうやら奴隷の扶養義務は帝国だけでなく王国にもあるらしい。いや、こっちで奴隷買うつもりなかったからなあ。
「わかり、ました。ラケシス様、に、お任せ、します」
「ええと、私じゃなくて騎士団の方にやって欲しいんだけど。一応騎士団は私の管理下に無いもの」
どうやら騎士団はラケシス様ではないらしい。王太子様の弟王子の管轄なんだと。うーん、そういえば会ったことないなあ。
「弟王子って死んでなかった?」
確か第二王子のジョドーだったかは自分で連れて来たダークウォーリアーにぶっ殺されたはず。
「王子が一人だけな訳が無いでしょう。妾腹ではありますが何人かいますよ。騎士団任されてるのはエールベール様ですね」
どうやらそういう人が居るらしい。まあそりゃあそうか。でも、その人信用出来るの?
「その貴族と繋がってる、とかそういうのは無いと思うわ。母親が騎士爵の家系出身で、本人も身体を鍛えるのが趣味だ、みたいに言ってましたから」
なるほど。要するに脳筋なんだな。いや、そんな人物を騎士団の統括にするだなんて、なんて無謀な。
「戦術指揮官としてはとても優秀なのです。ですが、政治的な話になると嫌がってしまって」
あー、考えるのを辞めてる人だ。戦場では多分違うんだろうな。ほら、春秋戦国時代の中国が舞台のあの漫画の主人公だって、頭悪そうなのに将軍やってるんだし。
「子どもにはどうなんですか?」
「前に話したことありますが、小さくて壊しそうだから苦手だと」
なんかダメそうな気がしてきた。ま、まあ、とにかくそのエールベールとかいう人に会ってみよう、
「誰だ、お前は? 何の用事だ?」
「初めまして、護といいます。王妃様やラケシス様には良くしていただいております」
「ふむ、ラケシス嬢の? それはそれは」
なんかニヤリとした笑い声だった。なんでもラケシス様は数少ない味方の一人だったらしい。エールベールが噂されても、オズワルド王子とラケシス様が黙らせたらしい。それからエールベールは王子とラケシス様を恩人と思ってんだとか。
「子どもを預かれ、ですと? 騎士団はお遊技場ではありませんな」
「お願い出来ないかしら、エールベール?」
「はっ! ラケシス様のご命令とあらば!」
こんな感じで話してる事がテノヒラクルーってなってたからラケシス様にも来てもらって正解だった。
騎士団に子どもを預けたら後は貴族の出方待ちである。果たして、その貴族はその日のうちに王様に謁見を願い出た。
「キドナ伯爵、それで申し入れというのは?」
「はい、先日ウチが購入しました孤児院の子どもたちが行方不明、いえ、おそらく誘拐された様でして」
「誘拐、ですか、キドナ伯爵?」
「その通りです、ラケシス様。私の財産に手をつけた何者かがおる様で。このままでは王国の威信が」
ぼくらは特別に謁見を特等席で見せてもらっていたがよくもまあいけしゃあしゃあと言うものだ。
「あー、それについてだが、騎士団から一言あるそうな、そうだな、エールベール?」
「はっ! 先日騎士団の詰所に子どもが駆け付けて来て、助けを求めていたので騎士団で保護致しました。なんでも外観は良かったのですが、中はとてもでは無いが人が済むのに適さない場所だとか。現在、民間人の協力を募って世話をしております!」
キドナ伯爵はその言葉に驚いたようだが、特に何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。




