第三百五十二話:未来の王太子妃様にご挨拶
歩美さん、基本的に子どもとアニマルズ以外と話す時はカタコトだと思ってください。
回復した子たちをレヴィアの浄化とユーリの心象風景でケアする。ユーリには心の中にあるつらい記憶を消してもらう様にした。膜も含めた人体の損傷は全て治したからね。あと、孕んでた子は居なかったよ。
「ありがとう、ございました」
歩美さんが深深と頭を下げる。いや、ぼくもあの子たちは助けたかったから気にしなくていいのに。
「この子たちは歩美さんのところで働くんですか?」
「そう、ですね。人手が、居なくても、なんとか、なる事、は多い、ですが、この際、何か、新しい、事でも、考えて、みよう、かと」
「なんなら屋台でもやります?」
「あの、材料、ないので、まずは、畑から、かなって」
なるほど。密林階層でも作ってそこで生物空間でも作るといいのかもしれない。あの孤児院の子たちは孤児院の庭で畑をしてたらしいからちょうどいいだろう。
「戻ったぜ、ご主人様。誰も来やしねえ。退屈だったぜ」
「それはそうだ。オレが襲撃に行ってんのに孤児院にまわす兵力があるかよ」
「なんだよそれ! セイバートゥースばっかズリぃぞ!」
「文句なら作戦考えたエイクスに言うんだな」
どうやらエイクスの考えらしい。まあレッドメットみたいな単細胞を貴族の館に突っ込ませる訳にもいかんわな。セイバートゥースならその辺の加減は分かってるんだろう。
「まあまあ、レッドメット。これからなのだよ」
「どういうこった、エイクス?」
「孤児をさらわれた貴族どもが私兵を集めて攻めてくるかもしれんという事なのだよ」
「おっ、それを早く言えよな! よぉし、腕がなるぜ!」
レッドメットが腕がなるとばかりにやる気になっていた。でも、来るのかね? だってセイバートゥース一人に屋敷がめちゃめちゃにされたんでしょ? そんなところに来るものかな。まあこればかりは貴族のメンツ的なものなんだろうけど。
「外に出られるんなら歩美さん、一緒に出掛けますか?」
「えっ? デ、デ、デート、ですか?」
「むぅー! 主様、デートなら私としようよ」
「アリスはいつもやってるじゃん。ボクとデートしてよ!」
歩美さんに持ちかけたのになんでアリスとユーリが反応するんだ? いや、デートじゃないから。
「ラケシス様や王妃様に挨拶とこの度の孤児院の事を報告にね。今でもここに来てるんでしょ?」
「はい、その、お忙しい、みたいで、時々、ですけど」
「孤児院の持ち主の貴族が孤児院自体に圧力掛けてくるかもしれませんから」
「でも、あの、もう、子どもたちは、ここに、居るので」
いや確かに子どもたちはここにいますよ? でも相手は貴族なんですよ。
「ええと、気づいてて言ってるのかは分かりませんが、今の状態だと歩美さんのやってる事って誘拐、窃盗なんですよね」
「え?」
そりゃあそうだ。どんなに酷い状態でも貴族の私有地なのだ、ある意味。そこにいる子どもは貴族の財産である。王国としては貴族に財産を返す様に命令、説得しなくてはいけない。いくら「保護・救助」と叫ぼうが今のままだと犯罪者である。
いや、もちろん犯罪者になるのも覚悟の上だと言うならそれでもいいかもしれない。その場合、ここに王国貴族が来ている以上は何かの拍子に発見されたらややこしい事になる。下手したら王国対歩美さんだ。
もちろんアニマルズ有する歩美さんが負けるとは思ってない。でも問題はこの後だ。王国はアリスを、そしてアスカを知っている。ラケシス様経由でぼくに話を持ってこられたら、また、そこからアヤさんを経て帝国にまで報告されたら。
その辺をとくとくと説明したら歩美さんも分かってくれた。で、ラケシス様と王妃様に挨拶してくれるとさ。その前に余分な脂肪を除去して欲しいと言われたのでアンヌに任せた。いや、安易にやるものじゃないと思うんだけど、今回は時間が無いからなあ。
そんなこんなで歩美さんを伴って着いたのは甘味処。いつもの様にテーブルでおしるこを頬張ってるラケシス様がいた。飽きないのかね?
「ラケシス様、おはようございます。いつもご来店ありがとうございます」
「あら、護さん。珍しいのね、こんなに朝早くに来るなんて」
「朝ならラケシス様が捉まるかと」
「私?」
おしるこを食べていたスプーンを口にくわえて小首を傾げる。あざとい。
「ええと、この子を紹介したくて」
「えっ? 誰? 護さんの嫁?」
「主様の嫁は私です!」
「あ、あの、いつも、うちの、スパに、来て、いただいて、ありがとう、ございます」
「うちのスパ……えっ、じゃあセイバートゥースさんやアルタイルさんの?」
「はい、歩美と、いいます。よろしく、お願い、しますっ」
思いっきり歩美さんが頭を下げたのでテーブルに頭をぶつけていた。おしるこのからの容器が床に散らばって歩美さんがごめんなさいごめんなさいとまたペコペコ頭を下げていた。




