第三百五十一話:歩美さんの孤児院大作戦(修復)
医療担当がアンヌしかいないんですよね。
セイバートゥースがブタ野郎貴族の邸宅に行ったときに、そいつはお楽しみ中だったそうな。ベタベタと手で触り、自分の護衛に、連れて来た孤児院の子どもに、果ては獣に、女の子を追い掛けさせて襲わせる。
なんでもブタ野郎貴族は不能らしく、これは女遊びし過ぎて色んな精力剤という名の違法薬物を使っていた結果の様だ。だから、これは代替行為というものなのかもしれない。
ブタ野郎貴族が一向に捕まらない女の子に業を煮やしたのか、獣の檻を開いて、獰猛な黒い獣を解き放つ。獣は一目散に女の子を追い掛けていく。女の子の顔は恐怖で歪み、一層の速さで逃げていく。それはそうだ。獣の場合は命の危険があるのだから。
女の子の一人が転倒し、その上に黒い獣が前足を載せて抑え込む。どうやらその子を餌と定めたらしい。巨きな口を開けて噛み付こうとしていた。
セイバートゥースが出くわしたのはまさにそこであった。セイバートゥースは獣気を放って黒い獣を威嚇する。黒い獣は一瞬怯んだもののセイバートゥースに突っかかって、そして首だけを晒した。まあセイバートゥース相手ならそうなるだろうね。
「何者だ?」
「あー、正義の味方ってやつかな」
「ふざけた真似をしてくれる!」
警備兵がかかってきたそうだが、黒い獣が放たれた時、怯えて後退っていた奴らがセイバートゥースの獣気に勝てるわけが無い。
セイバートゥースは屋敷の中を調べそこに囚われている子どもたちを見つけた。子どもたちは酷いものだった。目を潰された者、歯をすべて折られた者、片腕が欠損した者、さらってから間もないのに酷い有様だった。辛うじて生かされてる状態らしい。
「だから、助けて、欲しくて」
切羽詰まった表情で歩美さんが言う。いや、ぼく的には一向に構わないんだけど。ぼくはアンヌを呼んだ。
「なんですか、チーフ。これから薔薇風呂に入ってブランデーをあおろうかと思っていたところでしたが」
いや、パペットのお前にゃお風呂もアルコールも必要ないだろ? いや、アルコールは別の用途で必要か。
「急患だ。出れるか?」
「それを早く言ってください。二秒で支度します」
「そうか。じゃあセイバートゥースについて行け」
場所は詳しく聞いてないからセイバートゥースに丸投げだ。
「わかりました。では、行きましょうセイバートゥース」
本当に二秒で支度して、ぼくがこっちに呼ぶとセイバートゥースと共に走って行った。セイバートゥースの本気の走りには追いつけないが、アンヌもそこそこの速さで走れるので大丈夫だろつ。
ちなみに、アカネ=アリス>>>アンヌ>アイン=アスカ>>>(越えられない壁)>>>アミタである。足の速さがね。おっぱいサイズ? 順番的にはこれをひっくり返してアンヌとアインが入れ替わるくらいかな。って今関係ないか。
「チーフ、搬送用の車を用意してください。アミタ姉様が作っていますので」
しばらくすると念話でアンヌから連絡が届いた。いつの間にそんなものを作り上げたのか分からないけど、まああった方がいいだろうという事で黙認しておく。
アミタに連絡すると「ストレージに入っとるからアリス姉様にでも運転させてんか」などと言っていた。アリスで大丈夫かな? ハンドル壊さない?
結論から言うとエイクスが名乗り出てくれた。まあ夜目も効くし、色々と器用みたいだから任せてもいいか。アリスに試させても良いけど、バキって壊されたら直すのに時間かかるだろうからまたの機会だな。
エイクスが拡張空間付きの救急搬送車を運転して出て行って、そのままアンヌと患者たちを連れて帰って来た。セイバートゥースはブタ野郎貴族を引きずって、あとから帰ってくるらしい。
「アンヌおかえり」
「話は後で。直ぐに手術に入ります。患者は三名。アミタ姉様、培養の準備を」
「なんや人遣い荒い妹やなあ」
「頼りにしてます、姉様」
「そないなこと言われたらやらん訳にはいかんなあ! よっしゃ任せとき!」
「チョロ」
うん、最後のは聞かなかった事にしとくから。アンヌが死滅した部位と必要な部位をアミタに伝えて、アミタは細胞を受け取って再生機に入れる。いつの間にこんなオーパーテクノロジーなものを作ったのかは分からないが、大っぴらにするんじゃないなら悪くは無いだろう。
「アンヌ、目ん玉出来たで」
「ありがとうございます。では眼球移植並びに視力回復術式を行います」
別に一人でやるんだから言わなくてもいいと思うんだけど、言った方が手術らしさは出るからなあ。麻酔とか全部魔法で出来るからアンヌは凄い。ただ、まあ助手的な奴は居た方が良いよねって事であと一体は考えてみようかな。
それからアンヌが全ての手術を終わらせるまでかなりの時間がかかり、終わったのは翌日の昼頃だった。子どもたちはまとめてまだ寝ていた。アンヌが眠らせたままなんだって。まあそれなりに処置も必要だったしね。




