第三百四十三話:物事には限度というものが
リックさんのお友達、多分また出ます。現時点では名前はまだありません(笑)
バン、と叩きつけられた依頼票。これに何か問題でもあるのだろうか?
「あの、何か問題が?」
「問題しかありませんが?」
あー、やっぱり前日ってのはあんまりだったか。でもなあ。よし、じゃあその分の割増料金払えばいい?
「いえ、前日に募集というのは前例は少ないですが出来ないことではありません。その代わり集まらない場合でも手数料は返せません」
それは仕方ないか。でも集まらないことがあるのか。どうしようか?
「ですが、大丈夫です。あの条件ならすぐ集まるでしょうし」
そう言いながらハットさんはカウンターの中を見る。どうしたんだろう?
「……うちの職員が休んで手伝いたいって言うんでな」
もしかして責任を感じてくれてるんだろうか? そんな事良いのに。無いなら無いでぼくが手伝うだけだし。
「責任? いや、責任とは程遠いな」
「でも責任以外の理由が?」
「なんですか、この仕事内容は?」
「え? お買い物ですが?」
「その前についているでしょうが!」
「ええとメイドの指示に従ってってところ?」
指示を出すのがメイドなんでそれに従って貰わないといけない。冒険者というのは荒くれ者が多いのでその辺を守ってくれる人がいい。
「メイドと一緒に仕事というのは女性でなくていいのですか?」
「あー、はい。荷物持ちですから男性に」
「そんなの単なるご褒美でしょう!」
……相手がアインで申し訳ない。顔の造形は整えたから観賞用って事で。
「他にもありますよ。荷物持ちって事は誰でも出来る依頼ですな。ですので駆け出し冒険者を、というのは分かります」
ですよね。腕のいい人にそういうのを頼むのはなんか悪い気がするんですよ。
「しかし、ギルドにはそういうランクなどというものはありません。報酬と自分の実力を判断して、個人の責任で依頼を受けるんです」
どうやらギルドランクとかはないらしい。仕事は完全に自己責任。うん、まあそうだよね。
「ですのでこういう依頼は報酬額を少なくしてあまりベテランとかエリートな冒険者は受けないようにするんですよ」
「ですよね。だからぼくもそこまで高くは」
「いやいやいやいや! この依頼なら銅貨十枚がせいぜいですよ!」
え? さすがにそれはやすすぎない? 労働基準法違反じゃない? 最低賃金割ってるよね? いやこの世界には無いんだけど。
「ええと、という事は」
「この依頼票出したら駆け出しからベテランまで見たやつが来るでしょうね」
「そんなにですか?」
「この特記事項が効いてます」
特記事項? ええと、時間が掛かるだろうから昼食は提供しますってところ? 単なる賄いだけど?
「なんで報酬の他に食事が出るんですか! それなら食事だけで構わんでしょうが。それに食事って例のアレですよね? 絶対に騒ぎになります!」
買い物終わったらお腹空くだろうからと思ったんだけど、食べ物も報酬になるらしい。さすがに昼寝はつけないよ。
「ですから、この条件を変更して頂きたいんですが」
「ええと、それで人が集まりますかね?」
「心配いりません。必ず集まります」
「ええと、じゃあ報酬を銅貨十枚でしたっけ? 食事は無しで」
「そうしてください。ふう、これでよし」
まあ報酬下げるのは多分さっきの階上でのやり取りだろう。まあギルドの職員さんを動員するのは心苦しい。受付のお嬢さん方が来てないのはどうやら昨日の宴会のせいみたいだし。
それからハットさんと少し話してそのまま帰宅。明日の買い物で必要なものを書き出していく。とりあえず細々したものは現場判断に任せて、ベッドと机とクローゼット辺りは欲しいよね。まあ持って帰れないだろうから注文だけしとくんだけど。でもあったら持って帰って貰いたい。
翌日、朝にも関わらず、集合場所に指定していた三号店の裏手には人だかりが出来ていた。まあ、朝と言っても午前中って意味で決して早朝ではないんだけど。えっ、なんで? 銅貨十枚だよ?
見ると初心者らしき冒険者の初々しい人たちが多く集まっている。その中に何故かリックさんのご友人の人たちも居た。
「あの、おはようございます」
「おお、おはよう。朝飯食えるか?」
「いえ、食事の提供はしてませんけど」
ご飯食べに来ただけなの?
「いや、世話になったからな。誰も集まらないようなら手伝ってやろうと思ったんだが、必要なさそうだな。よし、じゃあ頑張ってくれや」
そう言うと去っていった。ああ、なるほど。昨日の今日で依頼したから集まらないんじゃないかと心配してくれたんだな。なんというかありがたいもんだ。リックさんのご友人だからエルさんとも知り合いなのかもしれない。そのうちお礼でも用意しておこう。
しかし、こんなに人数要らないんだけど、どうすんだ? 抽選でもするのかな? 五十人ぐらい居るんだけど。




