第三百四十一話:子どもを育てよう。
保育士資格? 何それ美味しいの?
夜が明けて、エルさんが改めて店に来た。働いてもらうに当たって、お子さんをどうするかというのが今日の議題だ。リックさんに見てもらえばいいのでは、と思ったが今日、今、見てもらってないということはきっと見る気がないのだろう。
「エルさん、ようこそいらっしゃいました」
「護さん、私は従業員になるのですから、どうぞ、呼び捨てでお願いします」
分かっちゃいるんだけどね。エルさんとはこの世界に来てからまもなくぐらいからの付き合いだからかしこまるのがデフォみたいになってんだよなあ。
「ま、まあ、それはおいおい。それよりもお子さんの事なんですが」
「そうなんですよ。暫くはこの子の世話で働けないと思いますから、実際に働くのは先になりそうなんですよね。リックが世話してくれれば」
「あ、今日リックさんは?」
「宿酔で寝てます。本当にしょうもない」
すいませんすいません、ビール出したの私です。ついでに発泡酒も出しました。安酒だったから悪酔いしたんだと思うんですよ。
「エルさん、その、子どもの事なんですが、託児所事業を立ち上げてみたいんで協力してくれませんか?」
「託児所?」
まあお金払って預けたい人がどれくらい居るかだけど、冒険者とかならあるかもしれない。実は紙おむつ(スライムおむつ?)を作った時から考えていた。売れてはいるけどいまいち手が出せない人が多い。そこで託児所で体験してもらおうという訳だ。
「来たがる人居ますか?」
「そこはそれ、とりあえず子どもには字を覚えてもらったり、簡単な計算が出来るようになる様な勉強をしてもらったりしたいんですよ」
魔法は才能ないと出来ないけど、「読み書きそろばん」は出来るようになった方が将来の仕事も探しやすい。その辺のメリットも提示させてもらおう。
「剣術とか護身術も習った方がありがたがられるかもね」
そうかあ。そっちの身体鍛える系は考えてなかったや。ほら、ぼく自身出来ないし。やるなら冒険者ギルドから先生を招聘するかな。
「では、この三号店の辺りに作る事にしましょう。商業ギルドに行きますか。あ、エルさんもついてきてください」
「私もですか? あの、この子は」
「抱っこして連れて来て……でも疲れるか。じゃあはい、これ」
ぼくはネットスーパーでベビーカーを。よく分からないから安定感のある三輪で衝撃吸収率の高いのを買っといた。
「赤ちゃんはこれに乗せてください」
「あの、これは?」
「え? ベビーカーですけど」
「あの、こんなものは見た事もないんですけど」
もしかしてやっちゃったかな? まあ出してしまったものは仕方あるまい。こういうのは買う前にアミタに相談すればよかったよ。まあ相談したら機関銃ついてる箱車とか作ってきそうではある。ちゃーん!
商業ギルドに着いた。一階に入るには階段があるので、ベビーカーはしまってもらう。この世界にバリアフリーを求めるのは酷だもんね。その代わりにおんぶ紐出そうと思ったけど、首が座ってなさそうだから普通に抱っこしてもらう事に。
「ようこそいらっしゃいました!」
ぼくが商業ギルドに入ると受付の職員が素早く対応して、直ぐにギルドマスターのゲーツさんがやって来た。
「どうも、ご無沙汰してます」
「全然構いませんとも。お陰様で苦情も減りました。ありがとうございます。それで、本日は?」
「はい、実は託児所を開きたいと思うのですが、必要な許可とかありますか?」
日本で託児所開くには認可か無認可かで違ったりするけど、どっちにしても自治体に申請はしないといけない。この世界にもそういうのがあるかもしれないからなあ。
「いや、特にないのだが、なんだ、その託児所というのは」
「ええと、働きたい家庭のために子どもを預かる施設で」
「子どもは妻が育てるものだろう? なんで他人が口出しするんだ?」
心底不思議そうにゲーツさんは言う。いやまあこの世界の人はこういう考えが普通だと思うんだよ。冒険者の人たちは割と先進的な人が多いんだよね。男女の別なくモンスターは襲ってくるからね。一部を除いてだけど。
「預かった子どもには食事と勉強の機会を与えます」
「はあ? なんだそれは? おいおい、どれくらい取るつもりだよ」
「あ、いや、そこまで高くはしませんよ。本末転倒になってしまうから」
ゲーツさんはぶつぶつ言いながら部屋の中をうろつきだした。これは徘徊癖かな? どこのウ〇娘だよ。
「どこに置くんだ?」
「ええと、冒険者ギルドの近くに」
「ふむ、わかった。何かあったら言ってきてくれ。新しい試みは歓迎しよう」
「ありがとうございます」
ゲーツさんに冒険者ギルドの近くの建物を紹介してもらう。面白い試みだからということで商業ギルドも乗り気だった。建物を下見したけど、古い元宿屋だったみたいだ。よし、ベッドの入れ替えからだな。




