第三百四十話:ギルマスの勤労に感謝
勤労感謝の日だったって昼過ぎに分かりました。なお、ゲームの日でもあるらしい。
で、ハットさんが冒険者ギルドを離れてこんな遅くまで何をやってたかと言うと、女性冒険者や受付嬢たちの為に、冒険者ギルドと商業ギルドに定期的にナプキンを納めて貰う様に販売元のエラリス男爵家に交渉に行っていたそうな。
交渉の結果、ギルドが王都の経済に取って重要な役割を示しているからという事で、販売価格を割り引いて売ってくれるそうな。こういうのも社販割引って言うんだろうか?
「あのナプキンとかいうやつ良いですよね。受付やってると、トイレにも行かせて貰えなくて、死にそうになる事ありますからね」
え?もしかしてギルドのカウンターの下では膀胱との戦いが繰り広げられてる? 膀胱砦の攻防みたいな。女性は男性よりも括約筋が活躍しないって聞いた事あるんだけど。尿道が短いからだっけ? いや、おもらしが見たいとかじゃなくて。
「あははぁ、そうだよねぇ、トゥーリなんてこの間さぁ、なかなか我慢出来なかったみたいでその辺の瓶にねぇ」
「メルリス! それは喋っちゃダメー!」
うん、聞かなかったことにしてあげるのがトゥーリさんの為だろう。しかし、名前は初めて知ったなあ。使う事もない気がするけど。
「あ、今更ですがハットさんも何か食べられますか?」
「ありがとうございます。男爵様のお宅でいただいて来たのですが、貴族と一緒の食事というのはなんかこう息が詰まりましてね。悪い方ではないと分かってはいるのですが」
ルドルマンさんは悪い人じゃないよ? 特に緊張とかしなかったけど。まああれかな。この世界の人じゃないからそういうのは鈍いんだろうね。
「こんな事、帝国の皇帝陛下の側近である護様に言っても分かっては貰えないでしようが」
は? あの、帝国皇帝陛下の側近? ぼくが?
「以前来た時は皇帝陛下のお忍びのお供でしたよね?」
あれは皇帝陛下がわがまま言ったから依頼で頑張っただけなんだけど。いや、わがままというのが個人としてでなく、帝国と王国の未来のためにみたいな感じだったから引き受けたけどね。まあ冒険者ギルドとかは完全に趣味だったんじゃなかろうか。主に皇帝陛下の。
「違いますよ。ぼくが皇帝陛下の側近なら甘味処を王都に出してる訳ないじゃないですか」
「……王都を潜入調査する為の拠点なのでは?」
「そんな事はありませんよ」
「で、ですが、毎日の様に帝国の大使殿が入り浸っているという話では無いですか」
一番日参してるの王国の王太子妃候補の公爵令嬢様なのですが。確かにアヤさんも日参してはいるけどね。
「護さん、全然籠絡されてくれないんですよねー」
焼き鳥頬張りながら言っても説得力ないんですよ。大体、ぼくを籠絡するのは諦めたんじゃなかったんですか? っていつの間にアヤさんがここに来たんですか!?
「いつもあなたの隣に這い寄る混沌、アヤでーす」
犯人はフォルテかな? アヤさんの為に漫画本をこの世界の言語に翻訳とかしてたし。あいつは一体何がしたいんだろう?
「で、アヤさんはなんでここにいるんですか?」
「ビールと焼き鳥があるからです! あと、甘味も」
犬並みの嗅覚なんですかね? いや、まあ食べる分には構いませんけど。アヤさんってぶっちゃけ筋肉質だから多分必要なエネルギー量はかなり多いと思うんだよね。だからって際限なく食べられても困るけど。
「アヤちゃんいぇーい!」
「リンちゃんいぇーい!」
なんかすっかり仲良くなってるアヤさんとリンさん。詳しく聞いてみると、エルさんが居なくなって身近な女性がいなくなったのでアヤさんを頼ったらしい。頭の中は大丈夫だろうか? いや、アヤさんも悪い人じゃないんだから心配しても仕方ないよね。
「あの、護さん」
「なんですかリックさん」
「ビールオカワリありますか? ほら、リンとアヤさんに飲まれちゃったみたいで」
その前に大半を飲んでいたのは受付嬢ズだと思うんだけど、そこは触れてはならないところなのかもしれない。まあ今日はリックさんとエルさんのおかえりなさいパーティみたいなところがあるしな。……まあ発泡酒でいいよね。
「おっ、こっちはこっちでなかなか美味いな」
お気に召した様で何よりです。エルさんにはお酒じゃなくてハーブティーを御提供。アルコールとかジュースとかカフェインは母乳に良くないとか聞いたことある。
「これは落ち着きますね。こういうのをのんびり飲みたいです」
とりあえず従業員控え室にいつでも飲めるように置いておこう。
その日の宴会はグダグダになって終了。リックさんは冒険者仲間の人たちに「夫としての心得」を教えてもらうそうな。半分くらいは未婚らしいんだけど。
受付嬢のトゥーリとメルリスはそのままカウンターの中で熟睡。いや、受付しないでいいのかなあ? とりあえず二日酔いの薬をアミタとアンヌに用意させておこう。
ハットさんはまだやることがあるからと宴会の途中でギルドマスターの部屋に入っていった。なんか可哀想な気がするので何か今度差し入れをしてあげよう。




