第三百三十九話:悪魔の宴
まあ飲み慣れてない人だとこんな風になったりするよね。
冒険者の皆さんと三号店のメンバーで食事会となった。場所は……店だとテーブルが十分ないので、冒険者ギルドの休憩スペースを使わせてもらう事になった。
「あの、本当に使ってもいいんですか?」
「もちろんですよ! この時間は冒険者ももう帰って来ないですからね。なんかあった時のためにギルドは開けてますけど」
「そうそう。第一、もう外の門は閉まってるんですから」
「「その代わり、私たちも料理とか甘味とか分けてください!」」
まあショバ代と思えば安いものだろう。人数が多くなったのでアインにはカレーを作らせた。カレーと唐揚げである。多くても安心のメニューだ。帝国で食べられるやつね。
他のものを出して広めちゃうと「店を出して欲しい」とか「今の店で取り扱って欲しい」とか言われる可能性があるからなあ。
「うひょー、こりゃあ帝国で食ったカラアゲとかいうやつじゃねえか!」
「ひえー、カレーもあるぜ。わざわざ宿屋に届けて貰ったんだよなあ」
既存のもので十分大騒ぎである。やはり新メニューは出さなくて良かったか。
「あの、護さん」
「なんですかリックさん?」
「焼き鳥とビールが欲しいんですけど」
「私ヤマイノシシの角煮がいいな」
そう言えば嵐の運び手のみんなは家にご飯食べに来てたな。その時にアインが色々食べさせてたっけ。……あー、もう!
「ご主人様、焼き鳥とビールは直ぐに用意出来ますがヤマイノシシの角煮となりますと少々お時間いただかないと」
「いいよ、とりあえず焼き鳥は出してあげて。ビールはまあちょっと様子見かな。冒険者ギルド内でお酒飲むのもどうかと思うし」
焼き鳥はちょくちょくつまめるのでいつでも出せるようにしてるらしい。なお、タレも塩もあるんだと。ぼくは塩派です。レバーだけタレ。
「おお、キタキタ。焼き鳥だ! えーと、ビールは?」
「ビールはダメです。仕事中の人も居るんだし」
「えっ? お酒なの? 私たちも飲みたい!」
「そうそう、こんな仕事、酒でも飲みながらじゃないとやってられないわよ!」
このギルド大丈夫なんだろうか。いや、大丈夫じゃないかも。ギルドマスターのハットさんには胃薬をあげた方が良いのかもしれない。
圧力がすごくて、ぼくは抗えずにビールを出した。ビールサーバーだと際限なく飲まれそうなので缶ビールを箱で買っといた。いや、発泡酒でもいいかとは思ったんだけどね。ビールと発泡酒って何が違うのかいまいち分からないんだよね。麦芽の比率がどうとかって話らしいけど。
「ぎゃははははは、酒持ってこーい!」
「どぉしたぁ? 酒がたりねえぞぉ!」
冒険者っていうのは日頃の戦闘での恐怖を酒で忘れたりするそうな。つまり、必然的に酒を飲む回数が増えているし、飲み慣れているんだとか。当然変な酔い方すると、酒場を出禁になってしまい、メンタルケアが出来なくなるので、そこまで自分を失ったりしない。駆け出しの頃ならともかく、ある程度まで来ると酒の飲み方を弁えている。
一方で、冒険者ギルドの受付嬢というのは上からの理不尽な命令や、冒険者からの苦情、依頼人からの自分勝手な注文などに晒されているのだ。それでいてギルドの仕事が終わったあとでも品行方正さを求められている。酒場で飲むなんて以ての外だ。
つまり、先程の雄叫びをあげているのは受付嬢のお二人である。どっちも女性だから雄叫びというのはあんまりだろうか。
「お二人とも、そろそろ仕事に戻った方が」
「なんだよ、バカヤロー! 仕事仕事ってそんなに仕事が大事かよ。ああ、大事だよ。冒険者のおかげで何回デートすっぽかしたと思ってんだ。おかげでまた彼氏にフラれたよ、ちくしょー!」
「あたしもさぁ、声掛けてくんのはむさいおっさんとかイキリなガキとかばっかりでさぁ、いい男が全然周りに居ないんだよぉ。たまに居てもさぁ、パーティメンバーが唾つけてやがんのよぉ。もうやだぁ、この仕事ぉ」
かなり溜まっておられた様である。うん、個人的には同情しますけどね。それをぼくらに言われてもどうもならないんですよ。
「あの、これは何の騒ぎなんでしょうか?」
そこに現れたのが冒険者ギルドのギルドマスター、苦労性のハットさん。いや、そんな二つ名ではないと思うんだけど。そもそも二つ名なんて無いかもだし。
「あー、ギルマス? ギルマスだぁ。ナニやってたんですかぁ、こんな時間までぇ」
「へっ、どうせ、可愛いお姉さんがいる店でイチャイチャしてたんでしょう、このすけべ中年!」
これはダメかもしれない。あの、ハットさん、お気を確かに。
「護さん、あの、私、冒険者ギルドの為に頑張ってたのに、帰ってきたらこの仕打ちなんですか? 神様って居ないんですかね?」
ごめんなさい。神様なら分体がぼくの部屋でポテチ食べながら寝転がってます。カウチポテト女神です。本体の方もカウチポテトしてるかもしれません。




