第三百二十六話:死神と呼ばれた男
水島のいずみちゃんではありません。
とりあえず証拠が集まるかどうかは分からないから理詰めでやってみる。うーん、サイコロック使いたいから勾玉誰か持ってきて。
「まず、お金を貸してくれるところ、というので迷わずアッコギさんのところを選んだところ」
「そ、それは、たまたま、偶然、じゃないですかな? 私はこれでも手広く金貸しをやっていますから、噂などを聞けば私になるんじゃないでしょうか」
「まともに金借りようとするやつがこんなチンピラが彷徨いてて金取られる様なところに来ますかね?」
明らかに動揺しているのが分かる。というかなんでそんな場所にいて襲われないんだよってのもあるけど、今はスルーだ。
「そ、それは、いや、私とは関係ありませんよね?」
「だったらここに借りに来る時はすんなり通れて、返しに来た時は襲われるのはなんでなんですかね?」
「偶然じゃないでしょうか? 襲われる時は襲われる。私でもね」
「じゃあなんで金を借りた帰りに襲われないんでしょうか。手っ取り早く手に入れるならその方が確実ですよね?」
「そんな事ワシが知るか!」
「簡単ですよ。今回は女の方が目的だから手を出すなと言っておいた、ですよね?」
なんだか落ち着きを無くしてきた。貧乏揺すりだろうか、机がガタガタ揺れてる。そういえば貧乏揺すりって金持ちがやっても貧乏揺すりなのかね? いや、あれは心が貧しかったらするらしいからなあ。健康にいいって話もあるけど。まあダイエットマシンは揺れるものだからね。
「あと、アッコギさんは何故ルドルマンさんの取引相手が逃げた事を知っていたんですかね?」
「……商人は情報が命だからな」
「それにしては知ったのがルドルマンさんが知ったすぐあとってのはあまりにも出来すぎですし、更に言えば詐欺師って分かっていればお金貸しませんよね? だって戻ってこなくなるかもなんですから」
「リ、リスクを恐れていては金儲けは出来ん!」
「またまた。最初からルドルマンさんから巻き上げる気だったのでしょう?」
「そんな訳が!」
「取引相手が詐欺師だと知っていて貸したならグル、知らずに貸したのなら単なる無能ですね」
「貴様!」
どうやら無能呼ばわりされるのはお嫌いなようだ。流行りの服は嫌いですか? ぼくは嫌いです。夏はポロシャツ、冬はスウェットで下はオールシーズンジーパン。これで完璧。エディー○ウアーとかラコス○とかは似合わないのですよ。あ、ユニク○は良いよね。
「ワシが知ってたか知ってなかったかなどどうでもいい。ワシは金を貸した。お前らは返せない。これだけだ!」
「誰が返せないと?」
「は? 利息分が足りんと言っただろうが、ばかめ」
「利息分はいくらですか?」
「そうだな……三倍貰うことにしようか」
「なっ!?」
三倍とはまた大きく出たものだ。これは証文に利息の事は書いてないな。言った者勝ちってやつか?
「随分とアコギな真似を」
「なんとでも言え! どうだ、払えまい?」
「仕方ない。三倍で良いんだな?」
「は?」
ぼくはストレージから先程の金貨の袋と同じものを五つ取り出した。いや、単にパペット作ろうと思って取っといたやつなんだけど、こういうのに使うとはね。
「御館様。グッジョブ」
だから作る時は作るよ? 必要になったらね。まあ今は大丈夫だけど。
「こ、こ、こ、これは、これは、これは!」
「では証文は貰っていきますよ」
「そ、そうはいくか! だいたい貴様は部外者だろう。引っ込んでいろ!」
「別に代理で返しても構わないでしょう? これでルナ嬢の所有権はぼくに移りましたね」
「わ、た、さん! 渡さんぞ、渡すものか! おい、執事、こいつらを始末しろ、良いな?」
「かしこまりました。何、あの黒狼が居た時は肝を冷やしましたがこいつら相手ならば」
執事が指から何か細い糸のようなものを靡かせながらこちらにつかつかと歩み寄ってくる。
「死神と呼ばれた私の技の冴え、あなたたち如きに見破れますか?」
ヒュンヒュンと風を切って何かが飛んでくる。おそらくは糸なんだろう。何それ、かっこいい! 糸使いバンザイ! やはり三味線屋はかっこいいよね! とか言ってる場合じゃない。糸は縦横無尽に飛んでくる。ルドルマンさんはもちろん、ぼくも回避なんて出来ない。それから、ヴィオレッタさんも万全じゃない、というかお腹を切り開いて手術中なのだ。
「死ねぇ!」
執事が指を一斉に動かしたらアリスがほいっと腕を横動かした。見えにくかった糸が絡まってアリスの右腕に巻き付く。
「まずはその右腕、貰ったぞ!」
「よっと」
おそらくは右腕を切り落とそうとしたのだろう。普通の人体なら切り落とされていたはずだ。アリスがやったことは単純だった。巻き付かれた右腕を軽く手前に引いたのだ。
「なっ!?」
執事の身体が浮いてこっちに飛んできた。お取り寄せ!




