第三百十五話:オードブルにはオードブルの生ビール
ビールでなくて発泡酒ばかり飲んでます。
会議室を解放してもらって、そこに料理を並べていく。こういう時にはパーティ料理だ。まあいわゆるオードブルってやつだね。まあ欧米でのオードブルは「お通し」みたいなものらしいんだけど。日本の場合は運動会とかで仕出し屋が出すような盛り合わせ料理の事を言ってるよね。
「おおー、やっぱり、やっぱりこうじゃなくちゃ!」
「驚いた。おしるこや羊羹も凄かったがこれもすげぇじゃねえか!」
「こ、これは! なんということだ。私も見た事がありませんな」
「相変わらず美味しそうですね」
「も、もう食べてもいいのでしょうか?」
「食べちゃお食べちゃお〜」
リンさん、ヴィオレッタさん、ハットさん、トムさん、ラケシス様……あとなんでアヤさんがここに居るんですかね?
「ええー、こっちで美味しいもの食べるっていうからついてきたのに〜」
嗅ぎ付けられたか。しかし、ものすごい執念。ま、まあ、アヤさんが居てもみんな食べる事はできそうだし、そのままでいいか。
「困りましたね。アヤさんが来たのなら料理を追加しないといけないでしょう。ご主人様、私は一旦家に戻って色々作ります」
いや、ちょっと待てちょっと待て。アインが居なくなったらぼくがまとめるの? この場を?
「え、ええと、とりあえず飲み物出しますので」
ぼくはコップとペットボトルのお茶を購入し、全員に注いで周った。ヴィオレッタさんとラケシス様はぼくの持ってるペットボトルに興味が津々だった様だけど、スルーした。聞かれても答えたくないし、売れって言われるかもしれないからね。
「で、では、改めて今後のことについて」
「かんぱ〜い!」
何故か上機嫌で一人で乾杯してコップのお茶を飲み干すアヤさん。いや、ちょっとは空気読めよ!
「護さぁん、これ、ビールじゃないじゃないですか!」
「そりゃそうだよ。今から話し合いするのにお酒なんか出してたまるか」
「ええ〜、ビール飲みたいよ〜、びぃ〜るぅ〜」
ああ、うるさいなあ。シラフじゃないの? いやアルコールの臭いはしないんだけど。
「え? ビールあるの? 私も飲みたい!」
「おいおい、なんだよそのビールってのは?」
「冷たくてね、喉越し良くてね、美味しいお酒ー」
「なんだと!? そんな酒があるとなっちゃあ飲まない訳にはいかねえよなあ、護?」
リンさんとヴィオレッタさんまでビールを要求して来た。
「びぃ〜るぅ〜」
「ビールビールビール!」
「お酒、ビール、お酒、ビール」
ああ、もう手が付けられない。どうしよう。ここは誰かに止めてもらわないと。とりあえずハットさんとトムさんに。
「トムさん、そのビールというのはそんなに美味しいのですか?」
「少なくとも焼き鳥とはあいました。そして冷たくて美味しかったのも本当です」
「焼き鳥! あの噂の焼き鳥ですか。という事はこの方々が焼き鳥を売っていらっしゃった?」
「そうなんですよ。私たちも時々いただいています」
「それは羨ましい。私も食べてみたいですなあ」
こっちはビールだけでなくて焼き鳥も出せと言ってるんだろうか。いや、あまりにもそれは。はっ、そうだ、ラケシス様ならきっとこの混乱した状況を何とかしてくれるに違いない。ぼくはラケシス様にアイコンタクトを入れた。ラケシス様はアイコンタクトで任せてくれと言った……気がする。
「皆さん、落ち着いてください。騒いではいけません」
おお、やはり公爵令嬢は違う。例えおしるこ無限おかわりする様な妖怪じみた胃袋しててもキメる時はキチッとキメてくれる。
「焼き鳥が王都から失われて時間が経ちました。そんな中で焼き鳥にビールなどと聞けば騒ぎが起こってしまうでしょう。ですから、ここでの事は他言無用にします。良いですね?」
全員一斉にウンウンと頷いた。そうじゃないよ! そうじゃないんですよ! 秘密にして欲しいというのはありますがそれ以前にアルコールなんか入れちゃったら話し合いが宴会になっちゃうじゃないですか!
「ご主人様、お待たせしました」
「おお、アイン、おかえり。料理は?」
「はい、皆様直ぐにでも食べたそうでしたので焼き鳥にしました。タレと塩、どちらでもいけます」
え? 焼き鳥なの? い、いや、確かに食べ物の指定はしてなかったけど、会議するのにそんな焼き鳥だなんて。あ、でも考え様によっちゃ話し合いしながら食べられるからいいのか?
「あと、皆様の喉を潤す用にビールをサーバーで持ってきました。これでいちいち給仕しなくて大丈夫です」
お前ぇぇえええええええええええええ! 話し合いするって言っただろうがあああああああああああああああ!
「あの、アインさん、これは?」
「私知ってる! これ、ビールが無限に出てくる魔法の道具だよ!」
「ほほう? そんな魔道具が? 興味深いですね。それでは試しに」
「本当にビールだ!」
あああ、もう全てが遅かった。




