第三百十四話:ご注文は冒険者ですか?
ハットさんは百四話辺りに出てきた人です。いい人なんですよ。苦労人とも言いますか。
あ、嵐の運び手のメンバーの名前はそれぞれス「ト(ー)ム」ブ「リン」ガーと「エル」「リック」から取っています。
という訳で冒険者ギルドまで来ました。
「ようこそいらっしゃいました。先日はゼビルが随分と失礼をしたようで」
どっかで見たことある偉そうなじいさんが出迎えてくれた。えーと、誰だっけ? それにゼビルって?
「私ですよ、ハットです。元領都のギルドマスターをしていた。まあもっとも一時守秘義務の関係で辺境に飛ばされていましたが」
あ、皇帝陛下を冒険者ライルとして連れて来た時のギルドマスターか。ん? じゃあゼビルって言うのは?
「あの事件、王宮で陛下がお名乗りになられたので冒険者ギルドの関与が発覚し、一時的にですが左遷のような状態で領都を離れされられまして」
ええと、なんかもう申し訳なさしかない。いや、だからゼビルって誰?
「おお、お許しいただけると? あんなにもあのお店にご迷惑をおかけしたというのに!」
「おいおい、護よお。ゼビルは羊羹寄越せって言ってきたギルドマスターだぜ」
羊羹寄越せ……あっ、ラケシス様を人質に取ろうとして連行されたバカか!
「まあお陰で私も王都に栄転にはなったんですがな。しかしあれだけの事をされておきながら忘れてしまわれるとは。余程あのお店の重要性というのは低いものと思われる」
そりゃあまああのお店が無くなっても帝国に店舗あるし、なんなら別のお店を出しても良かったんだしね。いや、お店無くなったらラケシス様が怒鳴り込んで来そうだけど。
「あの、旧交を温めるのも構いませんが、出来たら用事の方を先に」
「そうでしたな。商業ギルドより話は伺っております。店の警備任務でしたな」
「はい、そうなんです。どうでしょうか?」
「……それに関してですが、実はどうしてもと言ってきているものたちが居まして。その、一度お会いいただけると」
うん? この話、というかまだ労働条件すら詰めてないんだけど? いや、ざっと軽く話くらいはしてるけど軽い仕事内容だけで、給与とか休日とかは言ってなかったよね?
「その、その者達は新進気鋭の冒険者パーティでして、出来たら諦めさせて貰えるとありがたいのですが」
「……あー、なるほどな。まあアタシがここに居るんだからアイツらが嗅ぎつけても不思議は無いよな」
えっと、ヴィオレッタさん? アイツらって事は検討ついてるって事?
「焼き鳥はここかあ!」
ドカン、とギルドマスターの部屋のドアを蹴り開けてリンさんか飛び込んで来た。いや、焼き鳥はありませんよ?
「リン、来客中だ。入ってくるんじゃない」
「えー、なんでよ。だってヴィオレッタだっているじゃない!」
「アタシは護の護衛だぜ?」
「そこにアリスさん居るから要らないでしょ?」
「なんだと!?」
なんかヴィオレッタさんとリンさんで取っ組み合いの喧嘩が始まった。いや、なんだろうこのなんとも言えないのは。
「おい、リン! 勝手にスタスタ行くな……って護さん!」
顔を出したのはトム君だった。
「お久しぶりです、トムさん。エルさんとリックさんは?」
「はい、ちょっと色々事情がありまして、少しの間別行動してるんですよ」
「おっ、リックの奴、やっと求婚の挨拶に行ったのか?」
「ヴィ、ヴィオレッタさん!? しー、しーですよ、というかなんで知ってるんですか?」
「いやー、適当にそろそろかなあって思ってたから言ってみたんだが本当にそうだったのかよ。こりゃあ楽しみだ」
どうやらヴィオレッタさんの勘は鋭いらしい。しかし、嵐の運び手の皆さんが別れちゃってんですね。剣と王子が離れちゃうのってどうかと思うんですよね。いや、意味は無いんですけど。
「それで私たち、甘味が食べたいし、焼き鳥も食べたいの!」
「ええ、つまり、リンは護さんの護衛って事でお零れを狙っているということかと」
「だって、今まで食べたの全部美味しかったんだもん! いや、一日五回とか食べた時は辛かったけど」
その節は大変申し訳ありませんでした。お陰様で王妃様にもご満足いただけたからね。でもその結果、ちゃんとおっぱい大きくなったじゃない。まあそれでも天然物のエルさんには勝てなかったけど。
「まあ、リックさんとエルさんが戻ってくるまででしたら別に構いませんけど」
「もしかしたらエルはお腹が膨らんで戻ってこなくなるかもだけどね」
「おっ、孕ませる気満々なのか? そりゃあ帰ってきたリックを問い詰めねえとなあ!」
ヴィオレッタさんとリンさんが楽しそうに話している。部屋の主であるはずのハットさんは頭を抱えていた。どうやら引き留めてもらおうと思ってた冒険者の片割れカップルが永久に冒険者を引退しそうっていうのが頭が痛いらしい。
「ええと、とりあえず今後の事は食事しながらにしましょう。アイン、用意してもらえる?」
「かしこまりました」
「あ、ぼくのは別にカップ麺で」
「それは承服しかねますので却下です。ちゃんと食べてください」




