第三十一話:騙し合い。それが外交?
護君は基本的に善人なんですが騙された経験が多くて……
みんなでチョコレートケーキを頬張って、板チョコをお土産に渡すと約束した所で不可侵条約の話し合いになった。
「では、ザスカー帝国は今後一切の戦闘行動をこの森の一帯で行わないと誓おう。但し、人命がかかった緊急事態であればその限りでは無い」
「では我々はザスカー帝国と敵対せず、他の国がこの森を通ってザスカー帝国に攻め入る場合にはそれを食い止める事……って、これじゃあ単なる防波堤では?」
「ふむ、契約書はよく読む御仁のようじゃな」
皇帝はヒルダさんに命じて敵対しない事だけを約束する方の書類を出てきた。ふうむ、初めからこっちを結ぶ気であわよくばと思った訳か。では私も一文加えさせてもらおう。
「それでは軍隊をもってこの森のこの家を通過しようとした場合は攻撃されても問題ないものとする。この一文を加えてください」
「ふむ、つまり家の周りで軍事行動をするなと?」
「ええ、当然。騒がしくなりますから」
ゴーグル越しだと相手の顔がアドベンチャーゲームみたいだからこんな交渉も出来るね。対面してたらなんも言えてないと思うんだ。
「分かりました。それを加えさせてもらいましょう。これでよろしければ署名を」
「ヒルダ」
「諦めましょう、陛下。さすがに私は彼を、護さんを敵に回したくありません」
「やむを得んか」
こいつら絶対軍事利用というか森を通過する際の休憩所みたいな感じで利用しようと思ってたな? さすがに圧迫感がなければそれぐらいは対処出来るよ。
「では、書き加えましたので署名を」
「はい、署名しましたよ。後は双方でこれを保管……いや、一枚しかないですね?」
「ふむ、ではそれは我が国で預かっておこう」
「あ、えーとちょっと待ってくださいね。アイン、これ、二階の複合機でコピーして来て」
「かしこまりました」
書類を持ったアインが二階に上がってくる。
「ご主人様、こちらが契約書類です」
「うん、まあ知ってるよ? どうやら問題ないようたね。よし、コピーしとくか」
「よろしいのですか? ご主人様を騙そうとしてましたけど?」
なんだ、アインはそんな事を言いたかったのか。
「いや、むしろ出会ったばかりなのに全面的に信用する方が間違いでしょ。それに帝国としての利益もあるからそれを取りに行くのは当然。騙される方が悪いよ」
「しかし」
「その恐れがあるからコピーしようと思ったんだよ。その為にわざわざカラーコピーなんだからちゃんと見せておく様にね」
「分かりました」
コピーの終わった契約書を持ってアインが降りていく。ぼくはゴーグルを着け直した。
「ご主人様、こちらです」
「うん、上出来。確認してください。そっくり同じでしょう?」
「こ、これは……どのようにして作られたのですか? 陛下の御名御璽まで……」
「それは秘密です」
「……分かりました。ではどちらか一通をお互いが持って保存しておくことにしましょう」
これで変な風に偽造される心配もない。後から帝国の防波堤になるって書いてあるとか言われたくないもんね。まあどの道この森通って帝国に行く時に軍隊で街道じゃなくてここを通ったら攻撃するだろうけど。それは帝国側も同じだ。
「よし、では条約調印を祝って宴だな。酒を飲もう!」
「お酒ですか?」
「そうじゃ。乾杯用の酒は用意しておるのだろう? 条約締結した後は盃を空けるのが習わしじゃぞ?」
そんな習わし知らんわい! いや、もしかしたらそんな風習が本当にあるのかもしれん。ここは普通に酒を出してやろう。あ、ぼくはパペットだから酔ったりしないんで大丈夫だよね? というかいい加減お腹が空いて来たから適当な所でご飯を持ってあがらせてもらおう。いや、ぼくが持って上がるとまたしくじる可能性あるからアインに任せるか。
「では私の秘蔵のお酒を提供しましょう」
「本当か!? いやあ言ってみるものだな」
「てことはデタラメなんですか?」
「いやいや、帝国では世界的にマイブームでな」
「条約って国同士で結ぶものでは?」
「まあ細かい事は気にせんでくれ。ほれ、酒だ、酒」
仕方ない。言っちゃったから酒を出してやろう。ネットスーパーで買った安物ワインだけどな。一本千円前後。赤、白、ロゼと三種類買ってみた。日頃飲まないのでどんな違いか分からない。肉料理が赤、魚料理が白とか聞いた事ある。という事は肉も魚も食べる時はロゼ?
「仕方ありません。では少し料理して来ます」
と言ってアインが台所に引っ込んだ。しばらくすると料理を三品持っている。
「赤ワインにはサーロインステーキ、白ワインには鯛のちり鍋、ロゼワインにはエビフライを用意しました」
いつの間にそんなに!? とか思ってたら予め下ごしらえはしていたとのこと。優秀過ぎん? あ、いや、アインが料理の練習に色んなメニューを試してただけか。なんかネットスーパーで色々注文してくれと言われてたけど多くて内容見てなかったんだよなあ。




