第三百八話:面接面接そのにっ
どっちも既出の人です、コビルはちょっと前のセーラの辺り、ヴィオレッタは百十五話の辺りですね。もうちょいあとだっけ?
とりあえずジョーさんの件については保留にしよう。まあなんなら試験とかしてもいいと思う。一から作り方を叩き込む店員と違って、警備員の冒険者はそれなりに腕が立つ人間でないと困るからね。
「じゃあどんどんいこうか。次の人をお願い」
「うぇへへ、どうもどうも」
「失格」
入ってきた人物を見るなり速攻で失格を言い渡した。あんまりだって? いやだって、まさかこいつが王国にいるとは思わなかったんだよ。そういやラルフさんから追放されてたっけ。
「そ、そんな! せめて面接してもらえたりはしないのですか? 私はこう見えてもとある商会で番頭にまで上り詰めた」
「あなたの事はよく知ってますよ、コビルさん。ぼくの顔見忘れました?」
「かお? …………ああああああ、き、貴様はあの時の!」
どうやら思い出していただけた様で何よりです。さあさあ、お帰りはあちらですよ。
「ば、ばかにしやがって! そもそもお前さえ居なければクール商会は俺のものだったんだ!」
いや、ラルフさん、気付いてたって言ってたやん。行動起こさなきゃ遅くはなってただろうけど追放はどの道されてたと思うよ。
「こ、こ、この野郎! 全部全部お前のせいだー!」
大声を上げながら懐からナイフを取り出すコビル。いや、こんな所にそんなものを懐にのんだままで来るんじゃねえ!
「くたばれ! そして店は俺に寄越せ!」
ここでぼくを殺したところで別にお店が何とかなる訳じゃないし、そもそも殺して奪うとかどんな犯罪者の思想だよ。まあぼくは分身体だし、刺されたところでどうということは
「危ない!」
いや、危ないのはお前だユーリ。なんでナイフ持ってる奴の前に飛び出してんだ? しかも大きく手を広げて。ナイフを身体で受け止めるつもりか?
「アカネ!」
「御意」
天井から返事がきて、何か黒いものが床に突き刺さった。苦無というやつである。え? 魔王? その「くない」じゃないよ!
「なっ!?」
コビルが驚いているとするりと天井からアカネが降りてきてコビルの膝裏を蹴って転倒させ、そこからボーアンドアローの体勢にもっていった。あれって効くのかな? 最近腰の調子悪いのであれぐらい腰を反ってみたくなる。いやまあ腰には悪いんだろうけど。
「アイタタタタタタタタ!」
「何の騒ぎですか!」
さすがに異変を聞き付けた様で商業ギルドの職員がドカドカと踏み込んできた。ぼくが「賊です」という前に。
「この者が私にナイフを向けたのです。公爵令嬢で未来の王太子妃である私ににナイフを向けた意味は分かってるでしょうから後の処分はあなた方に任せます」
「なっ、そ、そ、そんなの聞いてないぞ!?」
うーわー、まあユーリが飛び出さなければラケシス様にも危険はほんのわずかだけどあったのかもしれない。それを逆手にとって相手に最大限のダメージを。恐ろしい人!
「大丈夫、勇敢なお嬢さん?」
「あ、ありがとう……」
ラケシス様が手を伸ばす。いやちょっとユーリには刺激が強いかもしれない。何しろラケシス様は国の中枢に居る存在だ。そんな人の周りは権謀術数乱れ飛んでいる。まさに硝煙弾雨の如しだ。なお、とある漫画のせいでずっと「剣林弾雨」だと思っていたのはいい思い出だ。
「失礼、ユーリ様、大丈夫ですか?」
「ありがとう……あなたもなのね」
「拙者は御館様の影故」
間一髪でアカネが助け起こした。まあユーリはびっくりしてたけどラケシス様に触れられるよりはマシだ。
「あなた……そんなに私にこの子に触れさせたくないの?」
「先程のコビルの事には感謝しますが、それ以外はご勘弁を」
「私は公爵令嬢で王太子妃になる者なんだけど?」
「そうですね、そんな方に睨まれてはこの国ではやっていけませんね。仕方ないので帝国にでも」
「ごめんなさい、ごめんなさい! 謝るから帝国に引き上げるとか言わないで! あと、大人しくしておくから!」
泣いて懇願された。いやまあ本当に泣いてたのかは分からない。女という生き物は涙を自由自在に操るらしいからなあ。
「では、次の方、どうぞ」
「よう、護。久しぶりだなあ!」
妙に馴れ馴れしい赤髪褐色肌の女性が入ってきた。なんだろう、どっかで見た事ある様な。
「ええと?」
「おいおい、アタシの事忘れたのかよ。つれないねえ」
えっとどこかで会った事あったっけ?
「ヴィオレッタ、あなたも来たのね」
「おお、公爵家のお姫さんじゃねえか。あんたも試験官か?」
「そうよ。私は護様の信頼も厚いですからね」
信頼を厚くした記憶は無い。それにしてもヴィオレッタってどこかで聞いたことが……あ、リンさんの友達の冒険者の人か! まあこの人のせいで冒険者ギルドの当時のギルドマスターが羊羹を接収に来たんだけどそれはこの人のせいじゃないしね。
「どうだい? アタシをここで雇っちゃくれねえか?」




