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第三百一話:料理は愛情。でも愛情なくても美味いものは美味い。

そういえば最近油物を食べるのが辛くなってきました。

 なし崩し的にいつの間にやら始まってしまったアイン対ベスさんのお料理対決。普通に考えたらベスさんに勝ち目はないと思うんだけど。だって調味料とか全然違うもの。


 この世界の食事の主な味付けは塩。たまに胡椒なんかはあったりするけど高価なので滅多に使えない。砂糖もあるが料理に使われる事はあまりない。むしろデザートに砂糖ジャリジャリのお菓子が出たりする。まあ甘さはステータスって思ってる人が多いらしい。


 それに対してアインはネットスーパーで様々な調味料を買っている。調味料無双だ。いや、醤油を辺りにばら蒔いて戦闘したりはしないよ?


「今日のテーマは、これ!」


 いつの間にやらセーラさんが用意した食材にかかった布をバサリと取り外す。そこにあったのは山と積まれたイノシシ。


「イノシシ。提供はアリスさんです」

「えへへー、主様、褒めて褒めて」


 いつの間にかイノシシを獲ってきていたらしい。よくよく話を聞くと畑を荒らしていたやつだそうだ。うちの畑?って聞いたけど、うちにはヤマイノシシが来るから普通のイノシシは来ないんだってさ。まあそのヤマイノシシもうちのゴーレムが何とかしてるらしい。


 で、今回獲ってきたイノシシはアリスが生け捕りにした後にちゃんと血抜きまでしたものらしい。なんでもアインからいつも獲物は血抜きしろと言われ続けていて、それがルーチンとして残ったらしい。まあ食べ物を大事にするのはいい事だ。


「これは……立派なイノシシですね」

「まあヤマイノシシに比べたらどうもいうことはありませんね」

「ヤマイノシシ……そんなのは調理したこともない」

「おや、怖気づきましたか?」

「そんな事あるものか!」


 セーラさん曰く、ヤマイノシシは大型なので狩るにも難しく、その肉は高級品とされているそう。数年に一度オークションで出されるのが関の山だとか。


 うん、うちの食卓には週に三日は並んでるんだけど。いや、畑に襲いに来るから仕方なくね。最初の頃は戦車砲とか使ってたんだけど。今ではゴーレムが倒してるのか。で、ゴーレムがどうやって倒してるのかっていうとやはり戦車砲らしい。ちょっとゴーレムさん、砲弾代は? 百万くらいしたよね?


 なお、オークションに掛けたら一千万単位の金が手に入るんだとか。あれ? でもぼくが最初にネットスーパーで売却した時は二百万だったような? ちょっとどうなってんだよ、フォルテ!


 まあフォルテに声が届く訳もなく、料理対決が始まった。アインは何を作ろうとしてるんだろうか? ん? あれは圧力鍋? それに醤油も? おいおいという事は豚の角煮かチャーシューだな。あまりにも本気すぎやしない?


「ご主人様、相手が本気で来るのです。本気で相手せずにどうしますか」

「本音は?」

「料理で負ける訳にはいきませんから」


 なんでそこで闘争本能に火がついてんだよ! 一方ベスの方はと言うとたどたどしい手つきでイノシシを切っていた。あれ? もしかしてあまり料理経験ない?


「ベスはあまり料理をしませんからね。私が作る方が多いくらいです」

「ええと、じゃあなんで勝負なんかさせたんですか?」

「だってベスが私のために料理作ってくれるって言うんですもの。どんな暗黒物質ダークマターでも食べてみせますよ!」


 ハアハアと目を血走らせながらセーラさんは言う。いやまあセーラさんが満足ならそれはそれでいいんだけど。


 ベスさんは薄く切ったお肉を野菜と一緒に炒め始めた。途中塩と胡椒を惜しむことなく入れる。そしてひたすら炒める。中華料理には「火の主人になれ」みたいな言葉があるという。火の主人になってるかはともかく根気よく鍋を回しながら炒めている。


 アインは圧力鍋を前に全ての工程をやり終えたとばかりに本を読み始めた。本の内容は……美味しん〇? ま、まさか、美食倶楽部総裁ムーブをかますのか?


「そこまで!」

「出来ました!」

「こちらも大丈夫です」


 セーラさんの号令がベスさんが料理を終えたタイミングでかかった。いや、さすがに意図的すぎる。まあアインは煮てるだけだから終わってると思ったと言われても仕方ないんだけど。


「ではまず私の方から。豚の角煮風チャーシューです」


 角煮なのかチャーシューなのか分からないが、それなりに出来てるみたいだ。圧力鍋使っても三十分以上かかると思うんだけど。


「ではいただきます……これは!」


 そう、豚の角煮は柔らかいのだ。分厚いのにすっとナイフが入るのにセーラさんは驚いている。恐る恐る口に運んだ。


「〜〜〜〜〜」


 声にならない叫びが聞こえた気がした。手足をバタバタさせるセーラさんの姿は今まで見たセーラさんのイメージを覆すものだ。


「アインさん、恐ろしい人……でもありがとうございます!」


 ふと見るとベスさんが鼻から血を出していた。慌ててアンヌが治療に走る。興奮のし過ぎだってさ。

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