第二百九十三話:出世払い()
大正四年の大審院が上告棄却したらしい。
命令、と聞いたアスカはすんなりアンヌを呼んで軽く診察させた後、全員急な処置が必要では無いことを確認してそのまま転移した。うーん、普通に言う事聞いてるよなあ。というか言ってないことまでやってるよなあ。
「主様、どうしたの?」
「いや、アスカがな」
アリスが聞いてきたので説明すると大笑いしていた。
「あははははは、主様、私たちは基本的に主様の命令には逆らわないよ。あれはアスカなりのコミュニケーションなんだから」
分かりにくいコミュニケーションもあったものだ。まあともかく嫌ってないみたいだからいいか。
「主様が好き好きってやってるのは私だけだからね。他の子たちはきっと嫌いなフリしてるんだと思うよ」
「嫌いなフリねえ」
「ほら、年頃の女の子が父親を毛嫌いするみたいな」
うーん、ああいうのって母親が父親をポロクソに言ってたらそうなる傾向が高いとか聞いたけど。ちなみにうちは父親と母親が有り得んくらいラブラブだったからなあ。むしろぼくの居場所が無いくらい。いや、だからぼくが引きこもっても見守ってくれてたんだろうなあ。
さて、パペットたちの好悪反応とかは今じゃなくても良いとして、早速エロジィの奴をしょっぴきますか。なお、担ぎあげる事も出来たけどやはり市中引き回し辺りは鉄板だよね。
エロジィは縄でぐるぐる巻きにされて、晶龍に引っ張られた。そのまま階段上がっていったり降りたりしてたから身体中に痣は出来てるはず。
「おい、貴様、やめろ! ワシを誰だと思っている! ワシはエロジィ男爵だぞ!」
いやいや、分かってやってるから心配しないで。
「うるせぇなあ、なあ、まもる、こいつ、ぶんなぐっていい?」
「いや、手加減できなくて気絶したり死んだりしたらまずいからそのままにしよう」
「えー、なんだよ、つまんね……あ、はい」
そのまま顔を青くして口を噤んだ晶龍。なんで晶龍の方が死にそうな顔色になってんだろうね。
「おい、そこの怪しいヤツら、止まれ!」
皇城の門番らしき人物がぼくらを止めた。まあそりゃあそうだ。今はもう夜になってるもんね。こんな時間に皇城に近付くのは常識外れだと思う。
「あー、あの、護と言いますが、宰相のヒルダさんに取り次いでもらえませんか?」
「なんだと? 宰相閣下は既にお休みになっておられるぞ」
あら、この時間でもう寝てるなんて健康的な生活というかなんというか。いや、朝早く起きて仕事を片付けるタイプなのかもしれない。ほら、灯りとか費用がバカにならないだろうし。
「ええと、じゃあ誰かなあ。あとは皇帝陛下ぐらいしか知らないし」
「はあ? 皇帝陛下だと? 皇帝陛下もお休みになっておられる! 貴様らごときが会えるお方では無いのだ!」
まあ普通に考えたらそうだよなあ。なら仕方ない。本来なら罪人を渡してはいおしまいってするところなんだけど、こいつはもしかしたら金をばらまいて罪を逃れてしまうかもしれない。だから確実に断罪してくれる人に渡したかったのだが。
「はあ、仕方ない。それじゃあ唐揚げ屋の倉庫にでも入れとくか」
「おっ、からあげか? あれうまいんだよなあ」
「食わせるとは言ってないが。まあいいや。どの道蜃さんもご飯は用意してないだろうし」
という事で唐揚げ屋の裏口から入ると中でヒャッハーしてる皇帝陛下が居た。いや、寝てたんじゃないんかーい!
「おお、我が息子、マモォールよ。よく来たよく来た。さあ、お前も飲め、飲むのだ! ここは我の奢りだ!」
我の奢りってだいたいお金もってきてないじゃん! 結果的にこっちが奢るかヒルダさんに請求に行くだけだよ。そりゃあまあ一度や二度タダ飯喰らいされたぐらいでどうにかなるような商売はしてないけどさ。
「皇帝陛下」
「ここではライさんとでも呼んでくれ」
「いや、皇帝陛下、なんでここにいるんですか?」
「つれないのう。ほら、あれじゃ。仕事が大変過ぎてストレスが溜まってしまってのう。だからこうして息抜きに来とるんじゃ」
「ヒルダさんに許可は?」
「はあ? そんなのヒルダが許すはずがあるまい! もちろんお忍びじゃ」
とてもいい笑顔でサムズアップしてくる皇帝陛下。いや、別にヒルダさんにチクッたりはしないけどさ。ほら、お金はどうするの?
「はあ? 我は皇帝ぞ? その皇帝から金を取ろうというのか!」
「いや皇帝陛下でも金は払ってもらわないと困ります」
「なんじゃなんじゃ、ケチくさいのう。払うわい。ほれ、出世払いでどうじゃ?」
皇帝陛下って頂点だからこれ以上出世しませんよね? というか出世の見込みが無い時は出世払いって即座に返済してもらうことが出来るって話じゃなかったっけ?
ともかくこのままじゃ話にならないからある程度は飲ませて食わせて落ち着かせるかね。明日になったらヒルダさんに引取りに来てもらおう。ついでにエロジィたちも一緒に。




