第二十九話:条約締結?
まあ信用問題ですよね。
ザスカー帝国皇帝ライハルト。見た目レスラーのオッサンは偉そうにするかと思いきや意外と腰の低い姿勢を見せた。
「こちらにアイン殿とアリス殿、それからそのご主人様とやらがいらっしゃると聞いてまかりこした。招き入れてもらえるだろうか?」
「私はご主人様の忠実な下僕、アインです。皇帝陛下とお供のもの二人程度ならばお招きしましょう」
アインにそう答えさせると皇帝と共に進み出たのはアヤさんとヒルダさん。他の人は何となく敬遠してるみたい。まあそりゃそうだよね。何が待ってるかも分からない「敵地」に行くようなものなんだから。
「ではこちらに。お付の皆さんには軽い食べ物でも。アリス」
「分かりました。どうぞこちらを」
渡したのはクッキーの小袋と紅茶。おやつ程度だね。なんか羨ましそうにヒルダさんが見てますが、中にもあるからそんなに見つめなくても後で食べられますよ。
そして家の中。勧められるままにリビングへと行きソファに腰を下ろす。
「これは……柔らかいな」
「前はこの様なものありましたか?」
「前は食堂でしたから」
「という事は食事は無しということですか!?」
アヤさんが悲痛な叫びをあげる。どんだけだよ。
「いえ、食事は条約締結後に食べられる様に食堂に用意してございます」
「やったー!」
いや、アヤさん、はしゃぎすぎではないですか? 皇帝陛下の御前なのに。
「ならば早く条約締結を済ませるとしよう。アヤが美味い美味いと言うので気になっておったのだ」
どうやら皇帝陛下は話がわかる感じの人の様だ。そして条約締結の場面。皇帝陛下がびっくりする様な事を言い出した。
「条約とは国のトップとトップがするもの。なればご主人様とやらに出て来ていただいて調印したいのだが?」
「申し訳ありません。ご主人様はちょっと……ですが全ての決定権は私が所持しております」
「これはな、信義の話なのですよ。顔も見せぬ輩と不可侵条約なぞ結べますかな? 私は皇帝として身を賭して出向きました。それに応えていただきたい」
ううー、言ってる事はもっともなんだよなあ。確かにぼくだけ姿を見せないのは信義に悖る。部屋から出て姿を見せた方がいいんだろうけど、足が動かない。あと、こんな姿だもん見られたくないよね。
「それだったらYOU分身体作っちゃいなYO!」
ラッパーにでも影響されたのかフォルテがそんな事を言ってきた。
「分身体?」
色々ツッコミたいところではあるけど、フォルテに聞いてみる。
「自分の身体を素体にしてパペット作るの」
「どんな違いが?」
「本人若しくは本人の体型変化、年齢変化程度しかカスタマイズ出来ない。一体しか作れないけど値段は十分の一と良心的」
パペットの十分の一? いや、それは便利だけど何で……
「本体のフォルトゥーナ様が絶対必要になるからそこはサービスだって」
……まあ引きこもりならば必要になるよな。よし、作成時間も一時間程度で良いらしいし作ってみるか。
「毎度あり。ではこちらにどうぞ」
なんか黒い円が足元にある機械に案内された。なんだこりゃ?
「M・T・Gスイッチオン!」
足元から薄いゴムのような粘体ご伸びてきてぼくの身体を包み込んだ。痛い痛い痛い! なんか全身が締め付けられる! やめろ、その脂肪はぼくの身体の一部だ!
後でフォルテに説明食らったんだけど、元はモンスターの剥製作るのに使ってたんだって。てっきりぼくがモンスター扱いされてるのかと……違うよね?
「ご主人様は少し準備に時間が掛かるようですので先にお食事などいかがでしょう?」
「ほほう? アヤが騒いでおった食事か? 面白そうだ」
「陛下、面白いですし美味しいです!」
「そうですね。一度食べる価値はあるかと」
「ヒルダにまでそう言わせるとはなかなかなようだな」
それから全員で連れ立って食堂へ。今日のメニューは唐揚げとピザ、それから一応ステーキもある。
「焼いた肉は何の変哲もないが、それ以外の食べ物が何やら想像もつかんなあ。アヤ、分かるか?」
「いえ、陛下。私も全く分かりません」
「こちらステーキに唐揚げにピザです。スープはコンソメスープを用意しました」
アインの説明に怪訝な顔をする皇帝陛下。
「えっと、じゃあまずこのステーキという焼いた肉を食べましょう」
「そうだな。その方が違和感はないかもしれんな」
そう言ってステーキを切って口に運ぶ。
「な、なんだ? これは塩で味付けするだけでなくコショウも使っておるだと!?」
「ひえっ、コショウなんて貴重品、同じ重さの金と同じ価値があるって聞いた事あります」
「ふむ、しかし、美味いな。この肉は口の中で溶けるようだ」
そりゃ美味いだろうよ。純国産和牛の高級霜降り肉だもん。




