第二百八十七話:皇帝陛下の名前なんだっけ?
①シャルル・ジ・ブリタニア(おぉる、はぃる、ぶりたーにあ!)
②ネロ・クラウディウス(余だよ♡)
③アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィール(ラフィールと呼ぶが良い!)
④ライハルト・ミューゼ・V・ザスカー
「主様はブサイクじゃない!」
これこれ、アリスさんや? 誰も「ぼくの方がブサイク担当だ」なんて言ってないのですよ? あ、蜃さんというかミラージュがイケメン認定されたから消去法ですか、そうですか。
だいたい、幻影で色男に見えるようにしてるミラージュに勝てる訳ないだろ! いや、別に勝ちたい訳でも無いし、勝てるって思うほど顔面偏差値に自身は無いんだけど。
「主様、私はあのイケメンよりも主様の方が大好きです!」
いや、慰めなくていいんだよ、アリス。というかお前もイケメンって認めちゃってるじゃないか。
「私はあっちのイケメンの方が好き。でもマヨネーズくれるからご主人様の方が好き」
アスカは欲望に忠実な様子。ま、まあ、裏切ったりはしないだろうから別にイケメンがいいとか言うのは止めないけど。
「私はチーフの様な顔が好きですよ」
アンヌはぼくの方が好きなのか。ゲテモノ趣味とかじゃないよね?
「あちらは整形のしがいがなさそうですからね。うふふふふふふ」
そういうことかよ! 基準が他人と違うからまあこれは仕方ないかも。
「御館様はそのままで良いかと存じます」
そのままでいい、と言ってくれるアカネは貴重なのかもしれない。でもあまり期待するとガックリ来るから過度な期待はしないでおこう。
「御館様が色男になると目立ちますからな。今のままのぼんやりと目立たぬ容姿が守るには最適かと」
……もう何も言うまい。どうせここに居ないアインやアミタの意見も似たり寄ったりになるんだよ。
よし、まあぼくよりもミラージュの方がイケメンなのは覆せない事実だ。ここは相手のバカ共をとっちめる事に専念しよう。と言ってもぼく自身は何もしないけど。
店の方からいかにもガラの悪い男たちがこっちに走ってくる。えっと、あんな奴ら居たの?
「いえ、私は知りません。見たこともありません」
セーラさんは困惑した様に言う。
「セーラを攫おうと思って店に潜ませといたんだけど、必要なくなったからね。おい、お前たち、こいつらをやっちまいな!」
ミンチナさん、言葉遣いが乱れていらっしゃいましてよ? いや、もう猫を被る必要も無くなったんだと思ったのだろう。
もしかしたら盗賊のリーダーから「主人の命は風前の灯だ」とか中間報告を受けたのかも。なお、最終報告は来ないものと思われます。
というか白昼堂々、店の前で盗賊使って騒ぎ起こすのは大丈夫なのかな? いや、白昼ではないか。薄暮冥冥ってレベルだもんな。
まあぼくらの時代みたいに至る所に灯りがあるみたいな世界だと冥冥にはならないんだろうけど、この世界はそんな便利な物ないからね。
とりあえず男たちは暗くても体格がいいので目立つ。ぼくらは向こうに比べればヒョロいから目印にはなるだろう。間違えてミンチナやアビニアを攻撃しないかなとか思ったけど、なんか馬車の中に隠れてしまった。
店から出て来た盗賊どもは二十人ほど。下手に騒ぐと官憲が出て来そうな気がするが、官憲が全てこちらの味方とも限らないしな。まあ皇帝陛下の名前を出せば大丈夫とは思うけど……そういえば皇帝陛下の名前、なんてったっけ?
ヒャッハー、声なきそんな叫びが聞こえてきそうなウェルカムトゥディスクレイジータイム。このイカれた時代へようこそ。ここは永遠のロックランド。拳を握りしめぼくらは出会った。いや、相手が握ってるのは武器なんだけど。ぼくらの方は誰も武器持ってないから拳で良いよね?
ミラージュに突っかかって行ったのは五人くらい。ミラージュはそれをなんなくかわしながら倒していく。あの、本体はおじいちゃんじゃなかったっけ? ぎっくり腰とか大丈夫なの?
「あの姿は会ったものを油断させるための姿ですからな。そもそもワシには腰なんぞありゃせんですわい。あ、貝柱ならありますぞ」
どうやら本体は二枚貝らしい。いや、龍じゃなかったんかい! ちなみに後で聞いてみると、元々はハマグリで、長く気を浴びて龍に変化したんだそうな。そこには長い歴史があったのじゃよ、なんて語ってくれた。
で、ぼくの方にも十人ばかり来たんだけど。手加減しながらイケメン殴るよりは思い切りブサイクを殴りたかったらしい。そりゃそうだよなあ。
「主様には指一本触れさせない!」
アリスが寄ってくる奴らを弾き飛ばしてくれる。比喩じゃなくて本当に弾け飛んでんだよ。あ、肉体の一部がひでぶとかあべしとかたわばとか言いながら弾け飛んでるんじゃなくて身体ごと弾けてるからね。汚ぇ花火じゃなくて良かった。
セーラさんの方にも身柄を攫おうとスケベそうなのが五人。捕まえたら何をしてもいいとか言われてるのか、それともどさくさに紛れて乳とかおしりとか触ろうとかそんな事を考えてるのかもしれない。




