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第二十八話:皇帝行幸

アヤちゃん、居住計画成らず!

「今、甘いものと、仰いましたか?」

「はい。甘味です」


 そう言ってアインは過剰反応気味なヒルダさんにケーキを差し出す。いや、単なるショートケーキなんですけど?


「い、いただきます」


 ヒルダさんはケーキを口に運んだ。パクン。返事がない、ただのしかばねのようだ? 反応もないよ? いや、毒とか入れてないよね? ネットで買っただけなんだよ?


「ほわぁぁぁぁぁぁ」


 ヒルダさんのお口から気の抜けたような声が漏れ出た。顔は完全に緩み切っている。


「甘いです。甘いのにしつこくないというか甘ったる過ぎはしないというかまろやかって言うんでしょうね。これは、これは、革命です!」


 そしてシャッキリしたかと思うとそんな事を言い出したのだ。


「うわぁ、これも美味しいです!」

「ちょっとアヤ! あんたこんな美味しいもの食べといて私には内緒にしてたの!?」

「ヒルダ先輩、ストップストップ! 私もこれ食べるの初めてなんですから!」

「初めて……そう。それは仕方ないわね。あの、アインさん? これは持ち帰ることなんて出来るんですか?」

「あ、先輩ズルい! 私も、私も持ち帰りたいです!」


 二人とも目が血走っている。これはあれだな。危険だからエサをやらないでくださいってやつだな。


「……残念ですが、持ち帰るのは御遠慮ください。こちらで食べる分には構わないですが」

「……おかわりはあるんでしょうか?」

「確認してみます……ホールである分までなら大丈夫だそうです」

「ホール?」

「ええ、ちょっとお待ちを」


 そういうとアインは一旦台所に引っ込んで切り分けたショートケーキのホールを持ってきた。切り分けなくてもショートなんだよね。切り分けたやつはピースケーキとかカットケーキって言うらしい。


「そんな、こんな、円形の、これを切り分けて?」

「はい、そうです。いちご一個分で切り分けました」

「この赤い果実はいちごと言うのね」


 どうやらいちごはないらしい。まあそれはそれでいいんだけど。


「ですので残りはこれだけです」

「で、では、おかわりをお願いします」

「私も! 私もおかわりしたいです!」


 それから二人は三切れずつケーキを食べた。いや、別にいいんだけど。アインもアリスも食べたかったら出してやるから。


「はあ、至福の時間でした。帰るのが名残惜しいです」

「私もここに住みたいくらいです」

「その手が! よし、アヤ・トーリエ銀等兵、帝都に帰還して皇帝陛下のご出発をフォローしなさい」

「先輩……宰相閣下はどうされるのですか?」

「私はここに残って引き続き交渉を」

「ズルい、ズルいですよ、先輩! それなら私が残ります。先輩は宰相なんですから、国を空けたままはまずいですよね?」

「アヤ、あなたって人は……」


 いやいや、そちらで勝手に揉めてますがここに泊める気はないですよ? どうしてもというなら外で野宿してもらうしか。


「御二方、ご主人様よりこちらに泊めるつもりは無いので滞在するなら野宿をとの事です」

「ううーん、野宿でもあのご飯と甘いものが食べれるなら」

「もちろん滞在中のご飯は提供しませんよ? あ、匂いくらいは嗅がせてあげても構わないそうです」


 そこまでは言ってない! それってぼくはどれだけ鬼畜な人間なんだよ。


「ううっ、それは普通に帝都に帰ります」

「残念です。ですが皇帝陛下がいらっしゃるのは本当ですのでよろしくお願いします」


 そう言って二人は騎士たちに連れられて帰って行った。フォルテがこっそりまた祝福をかけてあげた。


 それから暫くはゆっくりした日が続いた。コツコツとお金を貯めて新しいパペットを作れるまでお金が貯まったので次は魔法使い型にしようとパペットカタログを眺める。いやまあパペットフレームの状態は二体目以降は変わらないんだけど。


「新しくパペット作るなら装備品にも課金して変化の方向を確定させた方がいいですよ」


 フォルテが横から口を出してきた。なんと、そんな事が出来たのか!?


「いや、だって一刻も早く作るんだって息巻いてましたし」

「そりゃあまあ、早く欲しかったし?」

「結果的に引きこもりの護君にはちょうど良かったですけどね」


 ほっとけ! どうせ一人じゃ交渉とか出来なかったよ! まあその場合は話し合いの余地もなく殲滅させるだけだと思ったけど。


 まあともかくパペットの可能性はまだ先があるんだなと思い、そのままパペットを作るのはやめておいた。


 帝国の皇帝陛下の一行がぼくの家に来たのはそんな時だった。


「こちらは我がザスカー帝国皇帝、ライハルト・ミューゼ・V・ザスカー陛下である!」


 金髪碧眼だけどなんというかガッシリした肉体のオッサンがそこには居た。上半身裸だったらプロレスラーとかに間違われても不思議じゃない身体だ。

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