第二百七十三話:晶龍vsエンペラー(あとオマケ)
アリスの戦いはまあこんなもんです。
クイーンは真っ直ぐにアリスに向かってきた。エモノはない。素手戦闘だ。巨躯から繰り出されるパンチ。振り下ろしの右は凄まじい勢いでアリスに叩きつけられる。
「ほい」
アリスはそれを事も無げに左の人差し指で受け止めた。腕では無い。掌でもない。指である。そこまでの強度がある様には見えないし、そういう風にも作ってないと思うんだけど。
「無駄無駄。そんなのじゃ何発来ても私にはダメージ入らないよ」
クイーンはそのまま両腕を振り上げて「グゴラガァ!」という叫びと共に雨あられの様に拳を叩きつけてくる。アリスはそれを左人差し指一本立てたままで右に左にと逸らしていく。
「グ、グガガガガ」
「気が済んだ? じゃあいくよ」
アリスはその拳の雨に真っ向から右の拳をぶつけた。雨は止み、合わさった拳が面積は違えどかち合った。
「ギャワン!」
クイーンのかち合った右腕があちこちの血管から血を吹き出してボロボロになっていく。どうやら破壊された様だ。床をゴロゴロ転がっている。そりゃあまあ痛かったんだろう。
「ちゃんとトドメはさしてあげるから心配しないでね」
アリスは転がっているクイーンを蹴飛ばして部屋の隅に飛ばした。何をやるつもりなのか。
「主様、ちょっとシメて来ますのであとはよろしくお願いします」
どうやら隅の方でクイーンをボコるらしい。広いところだと他の邪魔になるって配慮なのか。それともぼくやユーリに残虐シーンを見せたくないからか。まあクイーンの始末が終わったら戻ってくるだろうし、さっきのバトル見てたら心配もしなくていいと思う。
エンペラーは剣かと思ったら手に持ってるのはハルバード。それを普通の剣みたいに振り回している。晶龍はそれに当たらない様にちょこまかと動き回っている。
「あたるかよ、そんなもん」
『今は避けている様だがいつまで続くかな? それ、それ、それ!』
「おっとっと。おにさんこちらってね」
どうやら攻撃は出来ていなくても回避は出来るようだ。でも攻撃しないと倒せないけど。うーん、これはレッドメットやアリスが来るまでの時間稼ぎってことかな?
『ここまでかわされるとは思わなかったぞ。ならばこうだ! 【皇帝の威圧】!』
エンペラーの気が膨れ上がった。いや、知らんけど。そして凄まじいプレッシャーが辺りを包み込んだ。ぼくとユーリは耐えきれず膝を着く。
「かはっ、た、助けて、護、さん」
「大丈夫だ……アスカ!」
「む、これは仕方ない。〈硬結界〉」
結界が厚くなった感じがして、息苦しさが無くなった。これはヤバいのでは? というかアスカは大丈夫だったのか?
「私は自前の防護魔法を常に身体の周りに展開している。それが剥げそうだったから結界強化した」
つまりアスカの防護魔法を抜けたって事か! これはあの三人が心配だ。大丈夫だろうか?
部屋の隅に居るアリスの方を見る。なんだか楽しそうに手足を動かしている。うん。きっと遠かったから大丈夫だったんだろう。さすがアリスだなんともないぜ。
キングと戦っていたレッドメットは、キングを倒してはいるが、エンペラーの威圧はかなり強力だった様で、膝を着くまではいかなかったが、少しガクンとなっていた。
これは圧倒的に二人より弱くてエンペラーと戦ってる晶龍が危ないのでは? そう思って晶龍の方を見た。が、なんともなってない。
「はっ、きくかよそんなもん。ちちうえのいあつのほうがこわかったぜ!」
あー、もしかして青龍の威圧を頻繁に浴びてたからこのくらいの威圧だと効かなかったんだろうか。
もしくは曲がりなりにも龍という種族の特性なのかもしれない。まあ龍が他の種族に膝を屈するなんてあまり考えられないもんな。
え? もう二体も龍を降してる? あー、まあその辺は異世界チートって事で。ぼく自身はチートでもなんでもないけどな!
『バカな! 何故我が威圧が効かんのだ!?』
さっき理由は晶龍が言ってたと思うけど愕然としすぎて耳に入ってないのかな?
「こんどはこっちのばんだ!」
晶龍は攻撃の止まったエンペラーに近付くと思いっきりボディに拳を叩き込んだ。
『ふん、効かぬ、効かぬわぁ!』
どうやらエンペラーの腹筋は思ったよりも硬かった様だ。晶龍の拳は防御を貫けなかったようである。
「ひえー、硬ぇなあ」
『そのような貧弱な拳が通用するとでも思ったのか!』
エンペラーは再びハルバードを振り回し始めた。しかしこっちの攻撃は当たっても威力が無くて、向こうの攻撃は当たらない。でも当たると多分ダメージは食らうんだよなあ。これはどうしたもんか。
「晶龍、ボディじゃなくて急所を狙いなさい! 教えたでしょう」
アリスがこっちに向かって叫んだ。どうやらアリスが晶龍に教えたらしい。いつの間にと思ったけど晶龍はアリスたちの言うことは素直に聞いてたもんなあ。




