第二百六十八話:ようこそ、ゴブリンの巣穴へ
ゴブリンは一匹見つけたら三十匹はいるんじゃないかな?
アンヌを連れてくればよかったなと考えて改めて呼ぼうかと思ったがいきなり出現しても村人たちが困るだろうし、下手すると実験台にされかねない。いや、普通に理性はあるけど、この村の人って女に飢えてる感じがするんだよね。人妻以外女居ないし。
アリスやアスカはどうとでもするだろうから心配してないんだけど、アンヌの場合は襲って来たやつを実験動物よろしくいじくる未来しか見えない。多分ぼくと一緒にいればそういう事もないかもだけど。
「ちっ、なんで手当が男なんだよ」
「全くだ。あのおっぱいデカいねーちゃんにやってもらいたかったぜ」
「俺はあっちのお嬢さんだな」
おい、ロリコンだ。ロリコンが居るぞ。まあアリスも含めて綺麗どころばかりだからなあ。ユーリも可愛いってレベルの顔だし。男の子と間違えたのは申し訳なかった。お風呂から上がったらちゃんと女の子だったよ。
「主様、ゴブリンはもう見当たらないみたいよ」
「そうか。じゃあまあ今日は早めに休んで明日朝から出るか」
「はーい」
「晶龍君もそれでいいかな?」
「おお、ひがくれるとゴブリンたちのほうがゆうりだからな」
どうやら晶龍もその辺の基本的な事は分かってるらしい。ゴブリン。妖精族とも邪精族とも言われる人型の種族。人間の子どもくらいの背丈しかないが、その性質は極めて残忍。人間の女性を攫って孕ませるという性質を持つ。稀にメスが生まれることがあり、その場合、幾人もの子どもを産んで、数が増えると進化に至る。
ゴブリンの進化は魔法使い系のゴブリンウィザードとゴブリンシャーマン。ゴブリンナイトとゴブリンライダー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンコマンダー、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキング、ゴブリンクイーン、エンペラーゴブリンとなる。
どこまで群れが拡張するかは分からないが、キングが生まれるくらいまで行くと暴走が起こり、街に多大な被害が生まれるのだ。なのでゴブリンの基本は見つけたら殺すである。ドーモ、ゴブリン=サン、ゴブリンスレイヤーデス。ゴブリン殺すべし!
また、ゴブリンは夜行性である。これは夜目が効く事と、他の生物の活動が鈍るからだと言われている。昼間にゴブリンがうろつくことはあるが、だいたいは腹を空かせて食料を求めているだけである。もちろんこれには例外がある。
「恐らくさっきのゴブリンはこっちを偵察に来た奴らだろう。多分指示を出してる個体がいる」
ぼくの意見はちゃんと的を射ていたらしく、斥候らしきゴブリンが今度はさっきよりも森の奥側からこちらを伺っていたという。なんでわかったのかと言うと、アリスが狩りに出かけて見つけて潰して来たのだと。ちなみに二体しか居なかったらしい。
「思ったよりも頭が切れるのが居ますね。このまま待つよりかは攻めた方がいいかもしれません」
「それにはオレサマもさんせいだ。まってるのはしょうにあわねえよ」
という事でゴブリンのアジトを探すべく、斥候らしきゴブリンを適当に傷付けた。二体はこっちと剣を交えることも無く、すっと退いていった。
「よし、追い掛けるか。アカネ」
「御意」
うん、姿は見えずとも影のように付き従ってたのは知ってる。といつかそういう動きをするように作ったからなあ。アカネは手負いのゴブリンをそのまま追跡して行った。
しばらくして、アカネが戻って来た。ぼくにだけ念話で「この先の小高い丘のような場所に地下へと続く洞穴がありました。奴らはそこに居るようです」と言ってきた。どうやらダンジョンなのか単なる巣なのか分からないけど本拠地の様だ。
現場は森の中の小高い丘のような場所で少し拓けたところだった。確かに穴がある。だが見張りなどの姿は無い。これはわざとなんだろうか。
「なにやってんだよ、あそこにゴブリンどもがいるんだろ? いこうぜ!」
晶龍はやる気満々の様だ。意気揚々と穴の中に向かっていく。いや、危ないと思うんだけど。仕方ないからライトをとりだす。ヘルメットについてるやつで手を塞がないで済むやつだ。
「いやがったな!」
どうやら最初の犠牲者を見つけた様子である。晶龍はそのまま中に突っ込むと入口付近で屯していたゴブリンをまとめて蹴飛ばした。ゴブリンたちはまとめて転がって一体のゴブリンボールになった。うん、単なるゴブリンで出来た肉の塊だね。
「ひゃっほー!」
晶龍はとても生き生きしていた。水を得た魚のようだとはこの事か。まあゴブリン見つけてぶっ殺してぐらいしか考えることないしね。村には男しかいなかったのでさらわれた女は居ないんだと。世知辛い世の中だ。
そうこうしてると洞窟の奥の方からゴブリンの一団が騒ぎながらやってきた。後ろにいるゴブリンが弓を持ってるのと杖を持ってるやつらしい。あれは多分ゴブリンアーチャーとゴブリンウィザードだろう。




