第二百六十七話:ゴブリン襲来
晶龍君の独り舞台でした。
ゴブリンを最初に見かけたのは村が本格的に立ち上がった頃だった。いつものように定時巡回に出ていた冒険者がゴブリンと遭遇した。ゴブリンとの遭遇自体はそこまで珍しい事でもない。実際に時々は出没したりするのだ。そんな場合は迷いかはぐれかだったりする。
見つけたゴブリンが二体しか居なかったので恐らくはぐれだろうと冒険者の人は言っていたそうだ。それからしばらくは何事もなく、冒険者たちの期間が満了して村を作りながらそれぞれの生活をしていた。
そんな時に今度は森へ木を切りに行った木こりがゴブリンと遭遇したというのだ。それも四体居たという。木こりは二人しか居なかったので斧を振り回しながらゴブリンを追っ払ったそうだ。
まあゴブリンの体格はちょっと大きい人間の子どもくらいのサイズなので斧を振り回すがっしりした体格の大人は怖かったんじゃないかと思う。
村長はそれでゴブリン退治の依頼を出したらしい。でも、引き受けてくれていた冒険者も居なくなり、丁度人手が足りなくなる時期だった様で、その依頼は保留状態だった。まあ冒険者に選ぶ権利があるんだからそれは仕方ない。
ところが事態は石が転がるように悪化していく。ゴブリンとの遭遇頻度が格段に上がったのだ。木こりだけでなく、猟師や、薬草摘みをしている奴らもゴブリンを見かけたというのだ。
「何度も見掛けるので冒険者ギルドに料金の上乗せをしてでも早く来て欲しいと要望を出しました。その時に群れになってる可能性を指摘されて……この依頼金では無理だと。それでお金を貯めて依頼金を増やそうと思ったのですが、ゴブリンたちの襲撃が続いていてそんな余裕も」
ヨヨヨと泣き崩れる村長。いや、男が泣き崩れる様なんて見たくはないんだけど。
「ゴブリンはこの村まで襲って来てるんですか?」
「は、はい。その、時々村の周りに柵を作ろうとすると襲撃を仕掛けてきたりします」
なるほど。これは頭のいいゴブリンの仕業。となると単なる群れでは無いと思うんだ。おそらくは指導者的な立場のゴブリンも誕生してると思う。
「ゴブリンが出たぞー!」
その時、外でゴブリンが現れたという叫びがあった。オオカミが来たぞではないと思いたい。急いで外に出るとゴブリンが五体と村人が対峙していた。いや、村人は逃げ腰なんだけど。
「晶龍君、行っておいで」
「おお!」
弾かれた様に晶龍が突っ込んでいく。弾丸のように突っ込む晶龍をゴブリンたちは認識できていなかった様子だ。それとも村人は全部雑魚だと思って油断していたのだろうか。
「くたばれ!」
晶龍が一番手前に居たゴブリンに横あいから拳を叩きつける。そのゴブリンは吹っ飛んで同じくらい前に出ていたゴブリンにぶつかった。二体がそれで戦闘不能になった。
「ギャアギャアギャア」
「なにいってんのかわかんねえよ!」
晶龍はそのまま一番前に出ていたゴブリンの頭に蹴りをかました。ゴブリンの頭蓋骨がひしゃげて血が噴水の様に吹き出した。
「ギャギャッ、グギャッ、グゲゲゲ!」
最後尾のゴブリンが声を上げると残った二体が撤退の準備に入った。迷わず仲間を見捨てて撤退するのはなかなか訓練されてる。もしくはそういう指示が出ているか、仲間意識なんてものが無いかだ。後者の方がこっちも助かるんだけど。
「にがすかよ!」
晶龍は地を蹴って最後尾のゴブリンの前に躍り出た。ゴブリンのスピードよりも晶龍のスピードの方が圧倒的に速いのだ。
「ギャアギャッ」
逃げられないと悟ったのか、それとも決死の覚悟で道を切り開こうとしたのか、ゴブリンは大振りに手に持った棍棒を晶龍に叩きつけた。晶龍は事も無げにその棍棒を掴んで握り潰した。
「あらよっと!」
「いやあ、すごいな」
「主様、あのくらい私だって出来ますし、なんならもっと粉々に出来ます!」
「いや、しなくてもいいからね?」
何やら対抗心を燃やしてるアリスは放っておいて、晶龍の方を見よう。武器を潰されたゴブリンは逃げる暇もなく晶龍の逆の手で頭を潰された。残る一体のゴブリンは逃げる事も出来ずにオロオロしていたが、これも晶龍が始末した。
「ふう、こんなもんだな」
「お疲れ様」
「す、すごい、すごいですよ! こんな子どもに任せるなんてなんて鬼のような奴だと思ってたんですが、こんなに強いなら納得ですね!」
この村長そんなこと思ってたんだ。いやまあ確かに傍目に見たら小学校高学年の男の子に大人の仕事押し付けて自分は綺麗どころとイチャイチャしてるように見えるよな。
「ええと、とりあえずは怪我した人に手当を。アスカ、治癒魔法を」
「苦手だし、治癒魔法必要なほど怪我してない」
「ううっ、まあ確かにそうなんだけど。仕方ない。ぼくがやるか」
「手伝うぜ、旦那」
「レッドメット、出来るのか?」
「セイバートゥースたちにボコられては自分で手当してるからな」
どうやらレッドメットも苦労してるようだ。




