第二百六十話:恐るべき子供たち
ゲノラの逆襲、メリルを助けろ、どこまでしつこい発狂大佐
サンドイッチが置かれた時は「毒が入ってるんじゃねえだろうな?」とか疑われましたが、何気なくぼくが摘んで食べたから遠慮なく食べ始めた。
ついでに唐揚げのチューリップというのだろうか。運動会とかで弁当に入ってる骨の部分持って食べるやつ。あれもみるみるうちに消費されていった。
おにぎりも考えたんだけど、中に何が入ってるのかわからないやつはやめといた方がいいかなって思ったんだよ。サンドイッチなら中身が見えるからね。念の為とか開いて確認するのも簡単だし。
子どもたちは確認とかしないでそのまま食べてるけど。よっぽどお腹空いてたのかむしゃむしゃ食べてる。日頃はどんなもの食べてるんだ?
「食べてるもん? ワニとかネズミとか」
「下水の生き物食べてんの?」
「しゃあねえだろ。他に食うもんねえんだから」
話を聞いてみればそういう肉を食ってるらしい。野菜も食わないと栄養失調になると思うが。あ、生肉だったらビタミンは摂れるから壊血病とかにはならないのかな。でも下水の動物の肉食うのってどうかと思うんだよ。病気になったりするだろうし。
「……腹壊しても魔法で治したり出来るからな」
「おい、キリエ!」
「もういいだろ。こいつらはオレらにメシくれて毛布もくれたんだ。そんで襲いかかっても来ねえ。向こうの方が明らかに強いだろうに。こっちは子どもだけなんだぞ」
「でもオレたちだって本気を出せば」
「バカ、本気出しても多分勝てねえよ」
どうやら何やら戦闘能力を持ってるらしい。いや、確かにキリエには不思議な能力あるんだろうなって思ってたけど、他の子どもたちもなのか。
「メシの恩もあるし、オレらの話聞いてくれるか?」
どうやらお腹がふくれて敵愾心がかなり弱まったみたいだ。どうやらこっちが本当に彼らを捕らえに来た人たちでないと分かったみたいだ。
「オレたちは孤児院から逃げて来たんだ」
そこから始まる話はまあ同情するような話だった。貴族の経営してる孤児院があったらしい。そこは貧しいながらもそこそこの暮らしが出来ていた。だが、例の政変があってその貴族は孤児院の経営どころでは無くなったらしい。
それでその孤児院の経営を手放すことになり、子どもたちの行先が無くなった。引き受けてくれる貴族が居なかったのだ。元々そこの孤児院で育った優秀なやつを貴族の子飼いとして召し上げていたらしく、将来の就職先まで失った。
その孤児院を買い取ると言ってきたのが某商人。商人が孤児院を経営するのもどうかと思ったらしいが、お金が必要になったのと、商人の子飼いとして今いる子たちを召し上げるつもりだと聞かされてたから売り渡したらしい。
「ところが、そんなの嘘っぱちだったんだ」
視察に来た商人は聖職者を連れていた。そいつらは子どもたち一人一人と握手を交わし「もう心配は要らない。我々真教のお導きのままに君たちの未来は照らされるだろう」なんて言ってたそうだ。
聖職者たちか帰った後に震えていたユーリが言った。「あいつら、ぼくらを実験動物みたいに扱うつもりだ!」って。
「ぼくは触れてる人の思考が読み取れるんです。こんな風……あれ?」
そう言いながらユーリはぼくに触れた。あ、もしかしてぼくが分身体だから読み取れない? これはもしかしたらかなりまずいのでは?
「な、なんであなたは読み取れないんですか? もしかして死んでる人? いや、でもそんなはずは」
「落ち着いてくれ。これには事情がある。後で説明するから」
「え? でもだって、こんなこと一度も」
「あー、もう、おちつけって。そんなによみたいならオレサマのよめよ!」
晶龍がギュッとユーリの手を握った。それで落ち着いたのか、ユーリは晶龍の手を握り返して……びっくりしてひっくり返った。
「えっ? 龍? 龍って何? 人間じゃないの!?」
「おう、オレサマはごりゅうのひとはしら、せいりゅうがいっし、しょうりゅうサマだ!」
偉そうに胸を張る晶龍。その態度に特に問題ないと思ったのかユーリは落ち着いてくれた。晶龍に悪意の欠片もなかったからだろうな。そう、晶龍は傍若無人なだけで悪気は全くないのだ。育て方が悪かったとも言う。
「ま、まあいいや。ユーリ以外のやつも特殊能力は持ってんだ。オレはこれ。熱光学迷彩」
すぅっとキリエの姿が消えた。視覚にも熱源反応にもおそらくは引っかからないんだろう。そして恐らく魔力的な探知も効かないと思う。
「まあこんな風にオレたちの孤児院って人とは違う能力を持ったやつらが集められたんだよ。親に金払ったりとかそんな感じでな」
違法に集められた訳ではないらしい。まあこの世界の子どもって成人まで生きていられる保証とか殆どないもんな。それなら農家とかそういうところの子どもとして過ごすよりかは貴族に召し上げられる可能性があった方が良いんだろう。




