第二百五十七話:下水の少女
ヒロイン(未定)
女の子の姿を見る。背は低く栄養は足りてない感じだ。全体的に丸みが足りない。でもそこはかとなく整った外見の素養はある。そりゃそうだ。誰も異世界に来てまでブサイクヒロインとか要らないもんな! いや、そんなご都合主義とかは関係ないんだろうけど。
手には棍棒を持っている。武器になるものが他になかったのかそれともあるけど使えなかったのか。それでも懸命にこっちに向かって威嚇してくる。
「こんなところまで追って来やがりやがって。どこで嗅ぎつけて来やがった!」
あれ? なんか誤解してません? ぼくらは単に掃除に来ただけなんですけど。
「い、いや、ちょっと話を聞いてくれ。ぼくらはこの下水の掃除をしに来ただけなんだよ」
「そうだぞ。そうじがおわればもうようはない」
「え?」
女の子は呆然として棒を下ろした。
「お前らは追っ手じゃないのか?」
「いや、そもそも何に追われてるのかもぼくらは分からないんだけど」
それを聞くと女の子は距離を保ったままこっちを見てくる。
「いや、それでもお前らが奴らの手先じゃないなんて分からない。警戒はしないといけない」
「君の言う奴らってのが誰だか分からないけど、君らは追われる様な事をしたのかい?」
「知るかよ。そんなの。奴らにはそれだけの理由があったんじゃねえの?」
うーん、このままだと追われてる理由とか聞き出すのも一苦労だな。いやまあ別に聞き出さなくてもいいんだけど。でもこの下水の掃除はしないといけないんだよね。
んで、掃除というのが「住み着いてるヤツらの排除」も含まれてるかもしれないんだよなあ。そもそも下水に住み着いてる奴らがいるなんてこっちの情報では無いし、当然許可もされてないんだろう。
つまり、この不法滞在者を排除するのもぼくらの仕事かもしれないって訳だ。こればっかりはぼくらじゃ判断出来ない。なんならギルドに報告しなくちゃいけない。その判断は依頼を受けた晶龍にある。
「晶龍、どうする?」
「どうするって……いや、わかんねえよ。なんでこんなくらいとこいんだよ。そとでくらせばいいだろ?」
「外に出たら捕まるからこんなところに隠れてるんだろうが! 何も知らないなら言うんじゃねえよ!」
まあ晶龍にはそういう「追われる者の生活」というのが分からないんだろう。何かの要因で追われているんならそれを取り除かないと外には出られないのだ。
「えーと、なんでおいかけられてんのかきいてもいいか?」
「……まあお前らはあいつらと違うみたいだから話しても構わねえかもだがオレたちを捕まえ無いとも言いきれねえ。信用が出来ねえんだよ」
「まあそうだな。会ったばかりで信用しろってのも出来ないよな」
ぼくなら信用しない。会ったばかりの人間が信じられると思うほどこの世は優しくないからなあ。でもまあぼくにはパペットが居るから少しぐらいはなんとかなるかもだよなあ。
「しんようされるにはどうしたらいいんだよ?」
「そうだな。こっちの要求を呑んで貰えれば多少は信じてやるよ」
「ようきゅう?」
「そうだ。まずは食い物だ。十日分の食い物はあるか?」
「一人で十日分?」
「そうだ」
これは恐らくこの子一人だけでは無いのだろう。仲間の数を把握させない為に言ってるんだろう。この子一人だけならそんなに量を持たない方が逃げやすいから。いや、欲張ってる線も無いことは無いんだけど。
「おい、まもる」
「晶龍、主様の事はちゃんと様付けで呼びなさい!」
「アリス、いいよ。呼び捨てで構わない」
「あ、では主様、私も主様の事をダーリン♥って呼んでも」
「で、晶龍君、なんだい?」
「主様!?」
アリスは放っておこう。
「オレサマはいま、くいものをもってねえ。そとにでたらがんばってかえすからこいつらにくいものをやってくれねえか?」
「なるほど。交渉という訳だね。それならいいよ。アイン」
「はい、ご主人様。保存食でいいでしょうか?」
「そうだね。嵩張らないように袋に入れてあげるといい。あ、紙袋ね」
コンビニのビニール袋とかに入れちゃうと色々まずいことになりそうだし。あ、でもここならスライムが処理してくれるのか。元の世界にもスライムが居れば環境問題とかも起こらないんだろうな。
アインが食料品をデカい紙袋に入れて幾つも渡す。中をのぞきこんでキョトンとしながら食べ方を聞いてきた。まあそうか。アインに個別包装のやつではなくて、こっちで作った干し肉やらの保存食と取り替えさせる。
「ちょっと待ってろ!」
女の子は紙袋を抱えると小走りで走っていった。うーん、このままついて行くとか思ってないのかな? いや、恐らくついて行っていたら信用されてないと思ってそれまでになってるかもしれない。
「御館様」
「アカネ? どうしたの?」
「はい、後をつけていたのですが、見失いました」
え? アカネが見失ったの!?




