第二百五十四話:貴族の成れの果て
こう、悪行は加速するみたいな。
嗜虐趣味が現れ始めた頃は野の獣で我慢していたらしい。しかし、獣では物足りぬと今度は奴隷を買うようになったそうだ。その時も殺すまではいかずに傷を治しながらいたぶって居たらしい。
そのうち、奴隷が反応しなくなり、貴族の持つ武器に力がこもっていったその時、辺りどころが悪かった奴隷が呻くように倒れた。そしてピクリとも言わなくなった奴隷を見て貴族は興奮したらしい。きっと勃起したんだろう。あ、勃起したのは魂ですよ?
それからは奴隷を買っては虐め抜いて殺してしまうというのが続いた。何人も奴隷を買う内にスパンは短くなり、奴隷を買う金も乏しくなっていく。そうすると貴族は開拓村から人を連れて来た。最初は働き口があると唆し、それが怪しまれると今度は人狩りをした。
セシルはこの屋敷に早い頃から仕えていたメイドで、貴族の愛人の世話をしていたのが、いつしか牢屋の掃除、そして死体の片付けを任されるようになった。
『私は孤児でしたから住み込みでして、他に喋る様な人間もいなかったんでちょうど良かったんだと思います』
人狩りをして調達していると、必然的に捜査をされる。しくじったのがその村で攫ってきた女性が、大物貴族の目に止まっていて召し上げる事が決まっていたのだ。大物貴族は酷く憤慨し、草の根を分けてもぐらいの勢いで探していた。一説にはその貴族の隠し子だったのではないかとも言われている。
大物貴族の捜査は厳しく、誘拐などという事をする事も出来ずに貴族は鬱憤が溜まっていった。そしてとうとう最後の犠牲者が出る。その日、セシル以外の使用人は居なくなっていた。セシルは行くところがなかったので居たにすぎない。
部屋のドアが乱暴に開けられ、貴族は地下の牢屋にセシルを連れて来て思う存分なぶった。セシルは抵抗しなかった。その事に腹を立て、貴族は凄まじい一撃をセシルに見舞い、セシルは事切れた。
その後の事はよく分からないらしいが、その貴族の親類がこの屋敷を引き継いだらしい。その頃からこの屋敷は幽霊屋敷として幾人もの犠牲者を出し、放置されていたそうな。
『まあそんな訳で私は上で何があったのか分かりませんが恐らくご主人様がこの家を渡さないとこ言ってたんだと思います。私は怖くて震えてました』
幽霊になっても怖くて震える事もあるんだなとは思ったけど、そういう事もあるんだろう。まあこの屋敷の成り立ちというかこの屋敷がどんな場所だったのかは把握出来た。
「ミル博士、ここに住むつもりですか?」
「なんだい? まるでいけないみたいな言い方じゃあないか」
「いや、いけないというか殺人事件の現場ですよ?」
「殺人鬼はもう居ないんじゃないか。それにここに住めばセシル君もついてくるんだろ?」
これには当のセシルさんもびっくり。キョトンとした顔でこっち見てる。
『あの、私、除霊されないんですか?』
「何を言ってるんだ、君みたいな素敵な実験素材を私が見逃す訳があるまい!」
ミル博士の頭の中には研究の事が第一で詰まってるようだ。まあ依頼主が良いって言うならそれはそれでいいけどね。
「よぉし、じゃあ晶龍君、ここの掃除も頼むよ」
「はあ? ここもオレサマがそうじするのかよ!?」
「当たり前じゃあないか。私の依頼は自宅の掃除だからね」
まあまあ、この牢屋の掃除なら水洗いで大丈夫だろうし、今度も手伝うから。ぼくじゃなくてアインが。
「しかたねえなあ。じゃあろうやはながしてやるか!」
ざっぱーんと水を大量に召喚して牢屋の中を洗い流していた。あ、洗浄用の洗剤入れといてあげる。ひとかけにこすりさん○ーる。
上の階はアインが片付けていった。ついでに補修もしたいからとアミタを呼ぶようにアスカに言ってた。アミタはゴーレムを引き連れて現れたけどな。自分ではあまり動きたくないそうだ。
外の庭の雑草はアスカの魔法で整地していった。まあ雑草伸び放題だったもんね。ぼくはそのままでもいいかなって思ったけど、あまり茂ってると虫が湧くからね。
「よし、これで大丈夫かな。あとは荷物を運んだらお終いだ。よろしく頼むよ」
「いえ、我々はここまでです」
「え?」
「我々が引き受けたのは飽くまで掃除ですから。ギリギリ悪霊退治も掃除と言えなくはないので範囲内ですが、引越しは別ですね」
「お、おい、そんな事言わないでくれよ。あの荷物を一人で運べって言うのかい? そりゃああんまりじゃないかな?」
「さて、どうするかは受けた本人に任せますよ。どうする、晶龍君?」
突然話を振られてびっくりする晶龍。いや、何他人事みたいに思ってんの? この仕事は晶龍の仕事なんだから。
「うーん、ついかりょうきんでひきうけてもいいぜ!」
サムズアップしながらキラリと歯を輝かせる晶龍。と言っても多分動くのはぼくらなんだろうけど。




