第二百四十八話:研究スペースへようこそ
形のイメージは浮遊機雷
書庫を一回りしたものの、本が散らばってるということも無く棚に置かれていた。いや、逆さまとかそういうのはあったんだけど。
書庫を出てから進むと更に上に上がる階段が。当然ながら階段に行くまでにも階段自体にもものが置かれてある。この辺りのはもしかしたら最近使ってるやつなのかもしれない。あまりホコリも積もってないし。三階建てなの?
「上は研究スペースだよ。一部二階部分のスペースもあるがここから入るんだ」
階段上ると少し低くなった天井に雑多な物が置かれている入口付近の床、ここでどうやって暮らしていたのか分からない。しばらく進むと少し広くなってて、下に続く階段がある。さっき言っていた二階部分だろう。
「さあ、ここが私の研究スペースだよ」
「なんで普通に二階に作らなかったんですか?」
わざわざ天井裏というかそういう通路を作ってまで回りくどい事をしたのには理由があるんじゃないかと思うんだけど。
「実験で失敗したら蔵書にまで被害が及ぶじゃないか。それは先祖にも自分にも失礼だよ」
どうやら本を大切にはしているらしい。
「今はどんなものを作っているんですか?」
「ほほう、気になるかね? よろしい、先ずは多元変異体の隆盛についての理論というものがあってね」
それから延々と二時間ほどよく分からない話が続いた。ところどころ何か専門的な用語が挟まれているようだったがぼくの頭がオーバーヒートを起こして理解を拒絶したみたい。
「まあつまるところ、開発しようとしとるものはものを保管出来、冷やす事が出来る箱のようなものよ」
つまりは冷蔵庫ってこと? それならうちにあるからいいか。それを言ってしまうとだいたいのものが家にはあるんだけど。
「何が難しいんだ?」
「精霊の定着というか発生だね。水の精霊なら呼べるけど氷の精霊はなかなか呼び出せなくてね」
うそういうのって呼び出すものなんだろうか? いや、この世界の普通はぼくには非常識なのかもしれないからね。
「それでなんで爆発したんですか?」
「そりゃあ召喚失敗して別の精霊を読んでしまったからに決まってるじゃないか」
「別の精霊?」
「あれだよ」
指さした先の空間には一体の浮遊物が浮かんでいた。あれは……バグ?
「爆発の精霊、ボムと言うらしい」
「言うらしい、というのは?」
「自分で名乗りました」
実験室の宙に浮かんでるのは浮遊機雷の様な姿をしたものだつた。
「かんたんだろ。あれをおいだしゃいいんだな?」
「あの、出来れば追い出したくは無いんです。そしてもっと出来れば研究に使いたい。冷却保存箱に使えなくてもほかの事に役立つかもしれない。そう思うんですよ」
依頼主の御要望とあれば捕まえない訳にはいかないなあ。となると精霊を捕まえる方法なんだが。
「せいれいとかってはなしながいからにがてなんだよなあ」
「話せるの?」
晶龍の言葉にびっくりした。
「あー、このくらいのサイズのはむりだけど、おおきいのはちちうえのところにもときどききてたぞ」
「ほほう? 君は一体どこの子かね? 近くにあるなら私も行ってみたいところだね」
さすがに海の中ですとは言えないわな。というかなるべくなら青龍さんのことは黙ってた方が良さそうだし。
「まあとにかくつかまえりゃいいんだろ? オレサマにまかせとけ!」
晶龍がずいっと前に出たかと思うとその浮遊物に向かって言った。
「おい、おまえをオレサマのこぶんにしてやる。おとなしくしたがえ!」
そう、居丈高にのたまった。普通に考えてそんな態度で従うか?って話だよ。海の中なら青龍さんの御加護とかで何とかなるのかもしれないけど。
おっ、なんか浮遊物が晶龍に近付いて来た。上手くいったのか? まさか居丈高なのが良かったの? 爆発の精霊ってマゾ?
「ほらな、オレサマにかかればこのていどのこと……」
ボムっ!
小さな爆発があって、晶龍の顔面が巻き込まれた。髪がチリチリになってる。
「てめえ!」
「あー、晶龍君ストップ。やっぱり喧嘩腰だと良くないよ。ここは説得方法を考えないと」
「だれがせっとくするんだよ」
「ぼくかなあ」
「どうやって?」
それなんだよねえ。言葉が分かればもしかしたら……ん? 待てよ?
「フォルテ、ちょっといい?」
「んあ?」
「とりあえずポテチ食べながらでいいから。ぼくって言語理解持ってたよね。それってどんなことばもわかるの?」
「そうだよ。この世界の言葉ならわかるね。意思疎通とかも可能だよ」
「じゃあ精霊とかも?」
「波長合わせるのに本人が行く必要あるけどね」
……出ないといけないの? 嫌だなあ。まあ本体であるぼくが行けば解決するかもなのか。でも行きたくないなあ。分身体からってのは……
「精霊の言葉は空気震わせたり精神に感応したりするから直接じゃないと受け取れないと思うよ」
詰んだ。行くしかないか。




