第二百四十七話:二階の出来事
デカい書庫、自宅に欲しいですねえ。
「いや、暗いから明かりを点けようと思ったんですよ」
「明かり? そんな筒みたいなものが明かりなのかい?」
「ええ、そうですよ。こうしてこう」
「おおっ!」
ぼくが懐中電灯に明かりを灯すとミル博士は目に見えて興奮し始めた。
「なんだねなんだね、こんな不思議なものが……魔力は感じられないね。不思議なものだ。筒状にする事で光を照らす範囲に指向性を与えているのかい。これは面白いな! なあ、キミ、これを譲ってもらうわけにはいかないだろうか?」
渡すのは別に構わないんだけど電池が切れたら使えなくなるしなあ。電池放置して下手すると火事になるし。
「ちょっと考えさせてください」
「いいともいいとも。いい答えを期待してるよ!」
改めて懐中電灯で部屋の中を照らす。床にものが散乱してるのはまああれだ。ぼくの部屋みたいな感じ。いいんだよ、ぼくの部屋は手に届かせたいところに絶妙に物を配置してるんだから!
「この部屋というか二階は何に使ってたんですか?」
「主に実験室だね。あと、寝る場所もだ。まあここのところ寝室にも入れてないんだが」
「寝室に入らないでどこで寝てたんですか?」
「ドラフトチャンバーの中だよ。なかなか居心地良くてね」
実験台にでもなるつもりなのかな?
「じゃあ二階の手前から部屋の説明をお願いします。通路の物はストレージに仕舞いますので」
「いやあ、便利だね。じゃあまず二階の一番手前が寝室だよ」
階段のすぐ上が寝室か。まあ一階にも近いから食事が終わってすぐ寝られるようにだろう。扉を開くと普通にベッドがあった。シーツは無い。裸の布団がそこにあった。なんというかさっきまで寝てたような惨状だが、少しホコリっぽい。
「……最後にここで寝たのはいつですか?」
「うーん、多分三年くらい前だと思うけど」
つまり三年間掃除をしていない部屋なのね。うーん、ぼくのベッドも万年床って言っても過言じゃない状態だったけど、さすがにこれは酷いな。
「晶龍君、布団を干すよ」
「え? あ、ああ、そうだな」
晶龍を動かして窓を開け外の空気を取り入れる。初夏の風が心地よく頬を撫でる。天気もいいし、これなら日に当てただけで気持ち良くなりそうだ。ぼくは布団は干してたからね。
「よし、じゃあ部屋の中を掃除しよう」
空気の入れ替えだけで終わるはずもない。ところどころにゴミが落ちてたりホコリが積もってたりするんだから。この部屋丸ごと水洗いしたいところだよ。
「よっしゃまかせろ!」
「え?」
「〈大海嘯〉」
ぼくの独り言を聞き付けた晶龍が部屋に水の魔法を放つ。部屋の中を荒れ狂う水が暴れ回る。ぼくは這う這うの体で逃げ出した。
「どうだ?」
「どうだ?じゃない!」
水が荒れ狂った部屋は水浸しで復旧が難しそうだ。いや、考え無しにやるんじゃないよ。
「ご主人様、なんの騒ぎ?」
「アスカか。晶龍君が部屋に水魔法ぶっぱなしてな。ご覧の通り水浸しだ」
「なるほど。水洗い。そういうのもあるのか」
「いや、だからってこのままだとまずいからな」
「心配ない。水まみれなら乾かせばいい。〈旱魃〉」
旱魃って雨が降らないことだと思うんだけど、どうやら強制的に旱魃状態にする為に水分を枯渇させるらしい。みるみるうちに部屋が乾いていく。
「これでよし」
「助かったよ」
「アスカさん、ありがとうございます」
「晶龍はもっと考えて魔法を使うべき」
「はい!」
なんでこいつぼく以外には従順なんだろうか。
「い、いやあ、ぽかーんと見てるしか出来なかったけど何とかなってよかったよ。じゃあ次の部屋に行こうか」
「次の部屋は?」
「書庫だよ」
寝室の隣に書庫というのも面白い。寝る前に読みたくなった時に便利だ。寝室に本棚が置かれてないのも頷ける。どの本を持っていくかかなり迷ったりするからね。
「まあ研究に必要なものは研究室に持って行ったりしているが、それでもかなりあるんだよ」
扉が開かれると、二階の大部分を占めてるような広さの書庫があった。これはもう図書館と言うべきものじゃないかな。よくもまあこれだけの本を集めたものだ。
「すごい本の数ですね」
「そうだろうそうだろう。ここにあるのはうちの一族が揃えて来た本だからね。歴史が違うのだよ」
「一族で?」
「ああ、ゲルデンハイムは研究者の家系でね。様々なものを研究してきた歴史があるんだよ」
という事は学者の一族? いや、もしかしたら貴族かもしれない。まあメイド雇ってたって言うし、商売には精通してなさそうだから貴族説が有力かな。
「書庫は特に整理しなくていいよ。下手に整理されると分からなくなるからね。もちろんさっきみたいな水も現金だ」
さすがに本を水浸しにする趣味は無いので大人しく従う。




