第二百四十四話:どこぞの学校の保険医みたいな格好
白衣ボディコンは男のロマン。
「ううん、ここは?」
「お目覚めですか」
「え、ええ、ここは……庭ね。私、気を失っていたのかしら?」
「立てますか?」
「何を言ってるんですか。私は元々立てな……えっ!?」
「ううーん、奥様!? 立っ、立った。立った立った、奥様が立った! これは夢でしょうか?」
「いいえ、現実ですよ、ルアナ」
「奥様!」
二人は抱き合ってわんわん泣いていた。歩美さんも泣いててアルタイルに慰めてもらってた。晶龍は泣いてないけどなんかぼーっと見てる。ぼくは涙を流さない。いや、パペットだからね。流そうと思えば流せるけど今は要らないかなって。
「ありがとうございます。ありがとうございます。このご恩は忘れません。お金なら出来る限り払います」
「マジで? やったぜ。これでクリアだろ?」
「いいえ、依頼書の金額だけで十分です。治したのもこちらの都合ですから」
「なんでだよ!」
晶龍が食ってかかってきた。なんでってそりゃあ晶龍が治した訳じゃないからだよ。飽くまで晶龍に色んな仕事を体験させるためなんだから。これが上手くいくと定期的に晶龍がこれだけで稼いじゃうかもだし。
「でも、それじゃあ私たちは恩知らずになってしまうわ。何かお返しがしたいのだけど」
「うーん、と言われても。あ、たまにデリバリーカレーか唐揚げ屋を利用してくれたらそれで」
「まあ、あれはあなたたちのお店なの? いいわねぇ。それなら頼んでみようかしら」
「是非お待ちしております」
ぼくらは依頼の完了のサインを貰って、御屋敷を出て冒険者ギルドに戻る。受付のカウンターで終了報告すると受付嬢さんは驚いていた。
「今まで誰も散歩に連れ出せなかったのに!? すごい、すごいですよ、すごすぎます!」
「あ、まあたまたま運が良くて」
「他のも期待してますね!」
期待が重いなあ。まあその期待を背負うのはぼくじゃないんだけど。
「次の依頼はこれです!」
提示されたのは……御屋敷の片付けだった。晶龍はどんな依頼でもやってやるぜ!とは言っていたが、塩漬けになる様な片付けの依頼なんてろくなもんじゃない。いや、冒険者が片付けに向いてないだけの話かもだけど。
「ここかあ」
地図を見ながら辿り着いたのは郊外にある一軒家。それなりに広い家だから庶民じゃなくてある程度裕福なんだろう。貴族の屋敷にしては小さいし、第一、貴族なら使用人を雇ってるはずだしね。
「ごめんください!」
晶龍が元気よく挨拶するが返事はなし。聞こえてないのかもと更に大声を出して挨拶する。それでもまだ聞こえてないのか反応がない。いい加減にしろ、とばかりに晶龍が息を大きく吸い込んで大声を出そうとした時、家の二階の一部で爆発が起こった。
「な、なんだ?!」
「主様、危ない!」
「うわっ、なんだこりゃ!?」
ぼくはアリスに押し倒されながらも返事をした。いや流石にぼくも依頼主が爆発するなんて想像もしてなかったよ。きたねえ花火だとでも言っとくべき?
見ていたら爆発した所にぶら下がってるお姉さんが一人。白衣に赤のボディコンを着ている。おっぱいは大きい。おしりも大きい。ウエストは割と小さい。つまり、モデル体型だ。
「へえ、ありゃ見事だな」
「!? 主様、やっぱり巨乳が」
「見事なのはあのバランスだ。辛うじて引っかかってる感じだ。アリス、下ろしてやってくれ」
「はぁい」
アリスがぴょーんと飛び上がって白衣の女性を掴み、地上に降りてきた。
「お待たせしましたー」
「よし、ありがとな。気絶してるのか? うーん、起こさないといけないか。呼吸はあるから人工呼吸は必要なさそうだが」
「人工呼吸!? あ、主様がどうしてもって言うなら私はいつでも」
「アミタ、電気ショックをストレージに入れてくれ」
「なんですのん? 誰か気絶しましたん?」
「ああ、不幸な爆発でな」
「爆発!? なんや面白そうやなあ、アスカ姉やん、うちを送ってんか?」
「むう、妹の頼みだから仕方ない」
いや、ぼくの時は対価にマヨネーズ請求するのに、妹ならロハなんかい! いやまあそれはそれでいいのかもしれないけど。
「呼ばれて飛びててややややーん!」
よく分からんことをほざき出した。一回精密検査をするべきだろうか?
「ええと、ほな、蘇生っちゅうか気付けやな。電極をこうしてこうやって、ほれ!」
バチン!と音がして白衣の身体がビクンと跳ねた。そしてのたうち回る白衣。なんか、のぉーのぉー!とか叫んでる。いやまあ多分びっくりしたか痛かったかのどっちかだろうけど。
「なんなの、なんなの、なんなのよ! あんたたち誰?」
正気に戻るにはもう一段階必要なのか? アミタがニヤリと笑いながら電極を手に持って構える。
「ひい、それはやめて! お金ならないわよ!」
「いや、それは困るんだけど(依頼料払えないと)」
「研究室の中に素材があるから換金は出来ると思うけど、それでも手間が掛かるわよ!(だから強盗なんて諦めなさい)」
「(換金の手間があるのか。現物払い? そんな事書いてなかったと思うけど)随分と話が違うな」
白衣の女性はビクンと身体を震わせた。




