第二十四話:潜入、侵入、乱入
大隊長、名前あったけど今回出してねえわ。
大隊長が縛られたまま目を覚ました時、みんなは煮込みハンバーグのおかわりを食べていた。煮込みハンバーグのえも言われぬ香りが漂っていた事だろう。二階の部屋に居たから匂いは想像だけど。
「貴様ら、何を食っておる!」
大隊長殿はその中に自分の部下を見つけると、一心不乱に食べている二人に向かって怒鳴りつけた。
「おや、目覚めたようですね」
その前にマッチョなアリスが立ちはだかる。いや、単に様子を見ただけな気もするけど。
「ほげえええけえええええ!? きっ、貴様は!?」
逃げようとするが縛られているので逃げられない。八回逃げられなかったら攻撃が全部クリティカルになるらしいよ?
「ご主人様からお前から話を聞くようにと申し使っております。洗いざらい話していただけますか?」
「ひいっ!?」
そうしていると大隊長は口から泡を吹いて気絶してしまった。なんだ、精神的に脆くてよく指揮官やってんな。あ、ぼく? ぼくは指揮官じゃないよ! 精神的に脆いのは間違いないもん。
「その経緯でしたら私から」
煮込みハンバーグを食べきったアヤさんが口を開いた。三回もおかわりするなんてお腹すいててしかも美味しかったんだね。
「国元に戻って大隊長に報告しますと、そんな森の中にそんな施設があるとは思えない、と、疑いの目を向けられまして」
まあ、この家いきなり出現したようなものだからね。有り得る。
「そこで食べたカレーの話をしますとそれなら食べてみたいという話になりまして」
カレー食べてみたいなら炊き出ししてもいいけど、そもそも普通のご飯だから作ってくれる人いないと食べれないよ?
「そこは作ってる者を奴隷にでもすればいいと思っていたのでしょう。それでこの家が見えますと、今度は住みたいと大隊長が」
まあ周りに畑があって森の中に無事にある綺麗な家ってだけで価値はあるし、前線基地に出来るもんね。
「それで力押しで制圧しようと?」
「私は反対したのですが」
軍隊物って良識ある人ほど位が低いよね。アヤさんの立ち位置はわかった。で、スレッグさんの方は?
「オレはアヤちゃんと同意見っす!」
まだ煮込みハンバーグを味わいながらスレッグさんは答えた。何考えてるかわからんけど基本的にイエスマンっぽい。
「で、これからどうするの?」
「大隊長を連れて帝国に帰国しようかと」
うーん、とアヤちゃんが決めかねているかのように言う。よくよく聞いてみると、アヤちゃんのおじいちやん、おばあちゃんが帝国の田舎で農業をやってるらしい。帝国を離れられないと。
「でも帰ったら確実に処刑されるっすよ? この大隊長が生きてたら」
スレッグさんが食事用のナイフをキランと光らせる。それで人を刺したりしない様に。
「ひいっ!?」
スレッグの声に大隊長は明らかに怯えた。
「きっ、貴様、暗部か!?」
「そういう事は思ってても言わないのが花っすよ」
「嘘、スレッグさんが暗部……!?」
「やー、ごめんっすよ、アヤちゃん。悪いけど口封じさせてもらうっす」
スレッグの手に握られたナイフが再び光り、アヤさんを急襲する!
ガキン、という音がして、アリスが素手でナイフを弾いた。えっと、割と食事用だから切れ味は悪いと思うんだけど、刺さんないの、それ?
「私どもはパペットですから」
……ああっ、そうだった! そういやあ生身の肉体じゃねえんだったわ! 見てたら肉感はあるんだけどなあ。
「ちっ」
そのままスレッグは身を翻すと二階への階段を……ってここに来るつもりか!?
アリスはアヤさんを、アインは大隊長の方を見てたせいでぼくの方まで気が回らなかったみたい。一瞬遅れてアリスも走り出した。
うわっ、ぼくちゃん大ピンチ! だがしかーし。ぼくも伊達に引きこもりしてないんだよね。こうなったら対侵入者防御発動だ!
二階に上がった彼を待ってるのは無数の部屋。ぼくの部屋の他に幾つか部屋があり、まさに迷宮。ぼくの認証を受けてないと扉を開く順番を間違えればあっという間に次元の狭間へと……
「ここっすか」
ガチャっとドアが開いてスレッグが入って来た。えっ、なんで、どうして!? 迷宮は?
「煮込みハンバーグの臭いが導いてくれたっすよ。それにガイドラインみたいなのもあったっすし」
しまった! 迷宮にアリスとかアインが引っかからない様にガイドをつけっぱなしだったわ!
「さあて、アンタがここのご主人様っすね? なんか単なるデブって感じっすけど」
ほっとけ! これはなあ、ぼくの心を守る肉の鎧なんだよ!
「まあ、逃げねえようっすし、このままぶっ殺しちゃっても構わんっすけど……あの下にいる奴らにどうやって言うこと聞かせてるか教えて欲しいっすよ」
スレッグはニヤリと嫌な笑いを浮かべた。




