第二百三十九話:男なら責任を取れなんていわれるわ
ミラちゃん出なかった!
「あれ? ここはどこだ?」
「お目覚めになられましたか、おぼっちゃま」
「しん? オレサマはたしかぼうけんしゃギルドとやらにいって、ミラがらんぼうされたからカッとなって」
「そうだな。暴れ回ったな」
晶龍の目が覚めたのでぼくも居ることを宣言。蜃さんに言伝を頼もうと思ったのだが、蜃さん一人だと甘やかしそうで心配だからね。
「オレサマはわるくないぞ! あいつがミラにらんぼうしたから!」
「ああ、ある程度は正当防衛だと思うよ。でもね、君はやりすぎたんだ」
「は? てきはてっていてきにつぶさないとまたくるじゃんか!」
「残念ながらそれもあるけど周りに与えた被害がね」
「まわり?」
「君が暴れた場所は冒険者ギルドだ。それがどういうことか分かるか?」
晶龍はキョトンとした顔をしている。まあ冒険者ギルドってどういうところなのか理解しきってないのかもしれない。
「冒険者ギルドは個人の邸宅では無くて公共の場所、色んな人たちが利用するところだ。そこには今回の件と無関係な冒険者も含まれる」
「え?」
「晶龍、君が暴れた事で冒険者ギルドの設備に大きな損傷が出ている。テーブルや壁、カウンターなどね。あと、止めようとして怪我をしたギルド職員もいるし、冒険者もいる」
「えーと、そ、それってオレサマがわるいのかよ!」
「だから言ったよ。やりすぎたってね。ある程度までなら相手の責任に出来たけど、明らかに度を超えていた」
「そ、そんなのわかるわけねえだろ」
はあ、とため息を吐いた。それで済むわけないんだよね。
「分からないなら何をしてもいい、という事にはならない。君は勉強中なんだよ。人間の事を学ばないといけない。龍の宮殿での常識はここでは通用しないと思ってくれ」
「……なら、どうしろってんだよ」
「まずは明日、ギルドの人に謝ってもらう。それからだな」
翌日。さすがに午前中に仕事に出す訳にはいかないからそのまま家で待機させた。お昼ご飯はアインに作らせようと思ったが、蜃さんが練習中との事でご相伴に与ることにした。
「簡単なもので申し訳ない。パンとスープですが」
パンは買ってきたものだし、スープは野菜を切って煮込んだだけのものである。それでも野菜の旨みが出てるのでそこそこ美味しい。塩での味付けはアインが指導していた。
「なんかしっそだな」
「おぼっちゃま、青龍様より質素な食事に慣れるようにとのお達しでございます」
「いや、そこまで質素でもないよ。これ、普通の人のご飯とあまり変わりないし」
「オマエはもっといいものくってんだろ?」
「そりゃあまあそういう時もあるけど」
「私としてはカップ麺の比率を減らしていただけるとありがたいのですけど」
アインがポツリと呟く。いや、ごめんよ。だってカップ麺の方がお手軽なんだもん。
午後になったのでギルドに行くとそのまま二階に通された。階下の壁はまだ空いたままだ。直さないのかな? いや、晶龍が来るから見せつけてるのか。
「ようこそいらっしゃいましたな」
部屋の中にいたのはずんぐりしたコラソンさんとどっかで見た事ある様な険しい顔をした人物だった。はて、誰だっけ?
「しばらくぶりだな。ギルドマスターのグガンツだ」
しばらくぶり……ああ! そういえば唐揚げ屋出す時に大騒ぎしたっけ。その時の人だわ。
「グガンツさんと知り合いかね。まあそれなら話が早い。さて、下の壊れたものについてなのだが」
「はい、それは本人に責任を取らせます」
「なんだと!?」
なんでびっくりしてるのか。まあ事前に言ってなかったからなんだろうけど。
「晶龍君、まずは謝ることだと言わなかったか?」
「だ、だって、いや、その、すいませんでした」
大人しく頭を下げた。まあアリスが一緒にいる以上は抵抗しても無駄だと思ったのだろう。
「謝罪は受け取ろう。で、責任の取り方をどうするかだが」
「コラソンよ、こんな子どもに責任を負わせるつもりか? それに護だったか。お前さん金持ちなんだろう? こいつの負債くらいなんでもないだろ? なんで出してやらねえんだ?」
「そこはこの子の父親に頼まれてますので」
「ちっ、そんな父親ならオレがガツンと言ってやる。連れて来い!」
グガンツさんは鼻息荒く息巻いた。連れて来るのはどうかと思うし、実際連れて来れないと思うんだよ。
「ええと、内密にして欲しいんですが」
「この部屋での会話の内容が漏れることはない。防音処理を施しているからな」
「そうですか。この子の父親なんですが、五龍の一柱、青龍なんですよ」
「は?」
沈黙が場を支配した。そりゃあ五龍となれば災害級とも言うべき存在だ。普通の魔獣なんかとは訳が違う。まあ赤龍も青龍もアリスがコテンパンにしてるんだけど。
「オレサマはせいりゅうがいっし、しょうりゅうさまだ!」
偉そうに名乗ったので頭を叩いておいた。




